最新記事

感染症対策

イスラム教の断食明け休暇帰省を全面禁止へ インドネシア、新型コロナウイルス感染拡大ストップへ

2020年4月22日(水)17時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

コロナ失業による強盗・窃盗など治安悪化への対策急務に

主要メディアの「テンポ」電子版は21日、ジャカルタ南郊のボゴールで30歳の男性が起こした窃盗事件を報じた。男性は新型コロナウイルスの対策で操業短縮に追い込まれた靴下工場を最近解雇され、生活に行き詰った結果近所の店からガスボンベを盗もうとして店員や客から暴行を受け、逮捕されたという。

警察の取り調べにこの男性は「食べるものがなく、2日間何も食べていない。子供に食べるものをとつい盗みをしてしまった」と供述していると伝えている。

ジャカルタでは西部の貴金属店に拳銃を持った強盗が押し入るなどの事件が相次いでいる。さらに刑務所での新型コロナウイルス蔓延を回避するために法務人権省が4月2日に服役囚3万8822人の早期釈放に踏み切った。釈放されたのは軽犯罪や経済犯などが中心で凶悪犯、テロ犯、麻薬犯、汚職犯などは含まれていない。

しかし「ただでさえ新型コロナウイルスの影響で失業者が増えている社会情勢で、釈放された人達が簡単に仕事を見つけられるとも思えない」(国家警察幹部)ことから釈放者による再犯、再逮捕の事案も増え、これまでに10人以上が刑務所に戻され、射殺された容疑者もでている。

こうした事態に国家警察は各州警察に釈放された服役囚の再犯にも目を光らせるように指示。刑務所側から釈放された服役囚の居住地、出身地などに関する情報提供を受けて、該当地域の町内会や地方自治体と連絡を取りながら監視体制を強めているという。

さらに犯罪増加の懸念が高まっているジャカルタでは首都圏警察が特別チームを編成して街頭パトロールの強化を始めている。

イスラム教徒団体の指導者などはこれまでも帰省の自粛を呼びかけてきたが、PSBBの影響で失業したり、通勤が不要になったりした労働者が早めの帰省をするためにジャカルタの主要バスターミナルや長距離列車のターミナル駅では混雑が続いている。

こうした混雑は感染拡大の危険を大きくはらんでいるものの、今後政府による帰省全面禁止が正式に効力を持つ前に駆け込み帰省をしようとする人々によるさらなる混雑が予想されている。

このためジョコ・ウィドド大統領が決断した「新型コロナウイルス感染の地方への拡大阻止」がどこまで実効性を伴うことになるのかはなかなか見通せない状況となりそうだ。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


【関連記事】
・「ストックホルムは5月には集団免疫を獲得できる」スウェーデンの専門家の見解
・日本がコロナ死亡者を過小申告している可能性はあるのか?
・アメリカの無関心が招いた中国のWHO支配
・シンガポール、新型コロナ感染1日で1426人と急増 寮住まいの外国人労働者間で拡大


20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソニー、米パラマウントに260億ドルで買収提案 ア

ビジネス

ドル/円、152円台に下落 週初から3%超の円高

ワールド

イスラエルとの貿易全面停止、トルコ ガザの人道状況

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中