最新記事

シンガポール

優等生シンガポールの感染者数が「東南アジア最悪」に転じた理由

2020年4月27日(月)18時20分
クロエ・ハダバス

政府の隔離措置を受け、宿舎を封鎖する外国人労働者 EDGAR SU-REUTERS

<大規模な濃厚接触者の追跡など、新型コロナ対策の手本とされてきたシンガポールの感染者数が東南アジア最多に。新規感染者の多くは、当局が無視してきた外国人出稼ぎ労働者だ>

東アジアと東南アジアの一部の国は3月まで、新型コロナウイルス対策の手本と見なされていた。特にシンガポールと台湾は、パンデミック(世界的な大流行)の震源地だった中国と経済的・地理的・文化的に深いつながりがありながら、新型コロナの感染爆発をうまく防いでいた。

いくつかの国はその後も健闘中だ。台湾で確認された感染者数は4月25日時点で、わずか429人。ロックダウン(都市封鎖)も回避している。3月初旬に感染率が危険なレベルに達していた韓国でも、ウイルスの抑え込みに成功した。

だがシンガポールでは、3月23日には510人未満だった感染者数が現在は1万2000人を突破。東南アジアで最悪の数字を記録している。

当局は大規模な濃厚接触者の追跡など、早くから新型コロナ対策を打ち出していたが、盲点が1つあった。人口580万の都市国家シンガポールに100万人以上いる外国人の出稼ぎ労働者だ。

南アジアの出身者が大半を占める低賃金の外国人労働者は、郊外の宿舎に密集して暮らしている場合が多い。人権活動家は早くから、彼らの存在を無視する当局の姿勢を懸念していた。NPOの「出稼ぎ労働者にも権利を(TWC2)」は3月の時点で、「社会的距離」を保てない宿舎で爆発的な感染拡大が起きかねないと警告を発していた。

多くの外国人労働者は1部屋につき12~20人が2段ベッドで眠り、毎日トラックの荷台に詰め込まれて仕事場へ向かう。共用の浴室に石鹸がなかったり、シャワーやトイレに十分な水がなかったりすることが多いと、彼らは英ガーディアン紙に語っている。さらにTWC2は、外国人労働者は病気を訴えたり、医療の助けを求めたりしづらい環境に置かれているとも指摘する。

ここ数週間、新型コロナが外国人労働者の宿舎に次々と広がり、当局は感染拡大を制御できなくなった。保健省は4月22日、新規感染者1037人のうち982人が外国人労働者だったと発表した。全症例の約80%は外国人宿舎が発生源とされる。

「外国人労働者を意図的に『不可視化』してきた結果だ。国家全体が、まるで彼らは存在しないかのように扱っている」と、TWC2のアレックス・アウはワシントン・ポスト紙に語った。

シンガポールは少なくとも6月1日までロックダウン措置を延長。ほとんどの職場を閉鎖させ、スーパーマーケットでの買い物を制限している。ガーディアンによれば、当局は必要不可欠な職種の労働者など7000人を外国人宿舎から移動させたが、まだ約29万3000人が残っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中