最新記事

メディア

政権批判のテレビ局、暫定放送再開に許可 フィリピン、放映権更新審議を継続へ

2020年5月15日(金)19時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

突然の放送停止を命じられたABS-CBN。Eloisa Lopez - REUTERS

<首都の都市封鎖が続くなか、大手民放が放送停止という異常事態はようやく解消へ>

フィリピンの大手テレビ局ネットワークのABS-CBNに対して国家放送委員会(NTC)が放映権の期限切れを理由に放送停止命令を出し、同局と系列局などが5月6日から一斉に放送中止に追い込まれていた問題でフィリピン下院は13日、緊急議会を開き当面5カ月間の暫定放送許可を与えることを決めた。

今後上院での審議・可決を経て最終的にはドゥテルテ大統領による署名でこの暫定放送許可の法案は成立し、近くABS-CBNは放送を再開することが可能となる。

25年間の期限が切れたABS-CBNの放映権については、今後暫定放送許可の期間中に議会で継続審議して解決の道筋を探ることも確認され、とりあえずは停波という最悪の状態からは脱することになりそうで、関係者らは安堵している。

ABS-CBNの放映権更新については、国会での審議途中であったことや、議会が新型コロナウイルス対策を最優先議題としていること、そもそも感染防止の一環として実質的な休会状態になっていたため、期限終了(5月4日)以降も最悪の停波措置にはならず放送継続は可能というのが大方の見方だった。

ところが、NTCは突然の放送停止を命令。その背景にはABS-CBNが一貫して取り続けるドゥテルテ政権への批判的立場への「懲罰的措置」という側面もあったとの見方が有力視されていた。

一方、大統領府は「NTCは法律に従った決定をしただけで、ドゥテルテ大統領は決定に関与などしていない」として政治的背景のないことを強調、事態の推移を静観していた。

オンライン審議で暫定放送許可を決める

13日に下院で審議されたABS-CBNの暫定放映許可に関する法案は下院のピーター・カエタノ議長が提案し、新型コロナ感染防止のためオンラインでの議会開催という形で審議が進められた。

審議ではNTCの突然の放送停止命令にフィリピン国内外から「報道や言論の自由を制限する命令で問題がある」との指摘が相次いだことなどを背景に「事前通告や適正な手続きを無視した命令だった可能性がある」としてNTCへの批判も出た。

さらにコロナ禍に関する情報提供を担う報道機関であることに鑑みて「突然の放送停止命令には問題がある」との立場から、暫定的な放送許可を与えることになった、などと地元メディアは伝えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中