最新記事

コロナ禍の世界

米独で集団感染が続く食肉加工工場 肉食を見直すべきとの声も

2020年5月25日(月)15時10分
モーゲンスタン陽子

食肉の供給にも大きな影響を与えている REUTERS/Lucas Jackson

<ドイツやアメリカで、食肉加工工場で新型コロナウイルスの集団感染が起きている。これらの工場で働くのは多くは移民労働者たちだ......>

ドイツやアメリカで、食肉加工工場が新型コロナ感染のホットスポットになっている。ドイツでは5月の2週間に4つの工場でクラスターが発生、数百人規模の新規感染者を出した。アメリカでは、ホワイトハウス自体が10郡をホットスポットと認定したにもかかわらず、うち6郡の食肉加工工場に対し、操業を続けるよう大統領令が出された。

これらの工場で働くのはたいてい移民労働者たちだ。「安い肉」への飽くなき需要のせいで、社会は彼らの置かれた劣悪な環境に見て見ぬふりをしていると、各方面から批判の声があがっている。

ドイツはようやく法改正

ドイツの食肉加工工場で働くのは、おもにルーマニア、ポーランド、ブルガリアなど東南欧からの移民や出稼ぎ労働者だ。彼らの置かれた劣悪な労働・住宅環境に対し改善を求める声は以前からあったが、行政はなかなか動かなかった。これらの労働者のほとんどは下請けの仲介業者が雇用主で、労働者の管理はこの仲介業者の手に委ねられているからだ。労働者たちは老朽化した不潔な寮に詰め込まれることも珍しくなく、こうした環境がクラスター発生へとつながっていった。

このような状況を改善するため、ドイツ政府は20 日、食肉産業に対する新規制の枠組みに合意。ドイツ通信社によると、2021年1月より、屠殺と加工は食肉加工工場の直接の従業員のみに限られるという。これにより、来年から仲介業者からの派遣労働者は禁じられる(ただし、個人の精肉店はこの限りではない)。労働時間規則違反の罰金は現在の1万5千ユーロから3万ユーロに引き上げられ、また10時間以上の連続勤務とならないよう管理システムが強化される。さらに、住宅を提供する雇用主は当局に移民たちの居住地に関する情報を提供することが義務付けられる。

これらの改正により、食肉の価格があがることも当然予測される。DWはオピニオンで「ドイツ人は肉により多く支払うことに慣れるべきである」とし、「多くのドイツ人がソーセージやバーベキューを愛し、ヨーロッパでもっとも豊かな国で暮らしているにもかかわらず、食品にかける金は概して低く、最低価格で提供しようと競争するディスカウントスーパーに慣れきってしまっている」と述べている。

ドイツのディスカウントスーパーは強大だ。筆者がドイツで気に入っていることの1つが、肉屋で肉が買えることなのだが、最近はソーセージなどの加工品しか置かない店も増えているようだ。個人経営のパン屋もほとんど見なくなった。ドイツの大手スーパーが扱う野菜や果物はほとんどが南スペインと南イタリアから来ており、こちらでもドイツでの価格競争が収穫人の劣悪な労働環境の一因となっているとかねてから指摘されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏ロレアル、第1四半期売上高は9.4%増 予想上回

ワールド

独財務相、ブラジルのG20超富裕層課税案に反対の意

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米金利上昇で 半導体関連

ビジネス

FRB当局者、利下げ急がない方向で一致 インフレ鈍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中