最新記事

感染症対策

新型コロナ、客室内の「空気」は安全? 航空業界に新たな課題

2020年5月27日(水)10時51分

旅客機メーカーと航空会社は、機内で呼吸する空気が安全であることを神経質な搭乗客に納得してもらおうと、緊急の取組みを開始している。写真は4月11日、米ユタ州ソルトレークシティーの空港を出発するデルタ航空機の客室内で撮影(2020年 ロイター/Jim Urquhart)

旅客機メーカーと航空会社は、機内で呼吸する空気が安全であることを神経質な搭乗客に納得してもらおうと、緊急の取組みを開始している。新型コロナウイルスによって大打撃を被った旅行産業を再建するには、この安心感が鍵になると考えているためだ。

ボーイングは、こうした顧客の安心感を徹底するため、その取り組みのリーダーとして、以前エンジニアリング・開発部門を統括していたマイク・デラニー氏を任命した。エアバス首脳陣によれば、航空産業全体として、コロナ禍への対応は、初期の危機フェーズから社会的信用の確立をめざす動きへと移行しつつあるという。

こうした流れのなかで特に目立つのが、客室内の空気清浄化プロセスを説明しようという業界一体となった取り組みだ。「与圧された機内にあるのは、澱んだ、あるいは再利用された空気だけ」という迷信を打ち消そうという試みである。

医療当局者は引き続き、新型コロナウイルスの感染症COVID-19を流行させる様々な原因の数量的分析を進めているが、注目が集まっているのは、ウイルスに汚染された表面に触れるだけでなく、乗客の咳やくしゃみによる飛沫が空気中を漂うことによって感染するリスクである。

航空旅行産業では伝統的に、客室内の空気の質よりも客席のピッチ(前後間隔)の大小が話題にされることが多い。だが、今回のパンデミックを受けて、この状況も変わらざるをえなかった。

エアバスでエンジニアリング部門を統括するジャンブライス・デュモン氏は、「機体の安全性だけでなく衛生面の安全性という広い意味において、乗客を守るために私たちがどのように取り組んでいるかを説明するということだ」と語る。

オフィスビルでは、室内の空気は1時間に約4回入れ替わる。現代のジェット機では、その頻度は20ー30回に増える。

「航空機の換気システムは、他の場所で出会うどのシステムにも劣らない」とデラニー氏は言う。さらに同氏は、機内におけるウイルス拡散の可能性を抑制する手法は、機内の徹底したクリーニングや症状のある搭乗客のスクリーニングなど複数あり、換気はそのうちの1つにすぎない、とも言う。

客室の空気は、主としてジェットエンジンによって吹き込まれる。燃料に汚染されていないクリーンな部分から空調設備に向けて圧縮空気が供給され、そこから客室天井のファンへと送られる。

ボーイング、エアバス両社とも、客室内の空気は機体の縦方向ではなく上から下へと流れており、これも感染の可能性を抑えている、と述べている。

その後、客室内の空気の半分は、医療グレードのHEPA(高性能粒子捕捉)フィルターを経由して再利用される。ここでウイルスを含む汚染物質のうち約99.97%が除去される設計だ。残りの半分はバルブを通じて機外に排出される。

航空機メーカーは、客室の空気は2~3分おきに入れ替わると主張しているが、科学者らは、実際には常に新しい空気と古い空気が混ざっているだろうと警告している。もっとも、換気の頻度が高ければ高いほど、それだけ早く古い空気も排出される。

航空機内の空気品質基準に対する勧告に協力してきたカンザス州立大学のバイロン・ジョーンズ教授は、「換気のペースという点で言えば、機内の空気は非常に高い頻度で入れ替わっている。この点から見れば、航空機のシステムは非常に優れている」と話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イスラエル、ラファ侵攻準備 民間人避難へテント調達

ビジネス

アングル:日銀会合直後の為替介入、1年半前の再現巡

ワールド

インドネシア中銀、予想外の0.25%利上げ 通貨下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中