最新記事

プーチン

大統領就任20年、ロシアを「巻き戻した」プーチンの功罪を9人の識者が斬る

HOW PUTIN CHANGED RUSSIA FOREVER

2020年6月4日(木)16時40分
スーザン・グレーサー(元ワシントン・ポスト紙モスクワ支局共同支局長)ほか

真の意味でプーチンが独自につくり出したのは、自身の政権維持に役立つ体制、すなわち極度にプーチンに依存した体制だろう。この体制は、その定義上プーチンが権力の座にとどまらなければ存続できない。

指導者の資質と思想が国の方向性を変える

マイケル・マクフォール(元駐ロシア米大使)

まずはリアルポリティクス(現実政治)論者の見解を聞こう。

「国際関係を動かすのは国家であり、国家間の力の均衡だ。指導者個人は関係ない。ソ連崩壊後のロシアは弱小国で、残った唯一の超大国アメリカの言いなりだったが、大国となった今はほかの主要国と角突き合わせている。プーチンがいようといまいと、こうした構造に変わりはない」

この説明は一見明快だが、間違っている。国家の行動を理解するにはまずその国の力を評価する必要があるが、力の均衡で全てを説明できるわけではない。指導者とその思想も国家の行方に影響を与える。プーチンとその思想も、ロシアと世界におけるその地位に影響を与えてきた。

エリツィンに後継者に選ばれ、政権を握ったプーチンはたまたま指導者になったにすぎない。統治や外交政策についての彼の考えはあまり知られていなかった。しかし就任当初から強権的な体質は隠せなかった。1990年代のロシアにあった脆弱な民主主義は、プーチン支配下で堅牢な独裁制に姿を変えた。プーチンは自由主義に背を向け、保守的なナショナリズムを支持し、推進した。

こうした展開は避けられたはずだ。ゴルバチョフもエリツィンも、程度の差はあれドミトリー・メドベージェフ前大統領でさえ、より自由な考えを受け入れ、より欧米寄りだった。エリツィンが改革派のボリス・ネムツォフを後継者に選んでいたら、ロシアは民主化の道を歩み、対欧米協調路線を取っていたかもしれない。

ロシアと欧米の対立は永久に続くわけではない。新たな指導者が生まれれば、ロシアが進む道も変わる可能性がある。

プーチンのロシアは疑心暗鬼で攻撃的な国

アンドレイ・ソルダトフ(ジャーナリスト)

プーチンはロシアを疑い深い攻撃的な国にした。プーチン政権発足後わずか数年で、ロシアは外部勢力を異常に警戒するようになった。国内ではジャーナリストや非政府組織、野党など政権から独立した立場にある人たちに不信の目が向けられた。

その一方でロシア政府は、国際的な危機と国内の危機に攻撃という手法で対応するようになった。ウクライナの首都キエフで親ロシア派政権に反対するデモが広がると、クリミア半島に軍隊を差し向けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中