最新記事

台湾

コロナ危機が示した台湾の生き残り戦略

How Taiwan Can Turn Coronavirus Victory into Economic Success

2020年6月4日(木)18時40分
エドワード・ファイゲンバウム(カーネギー国際平和財団・研究担当副代表)、ジェレミー・スミス(同ジュニア・フェロー)

情報通信技術の市場が成熟しつつあるなか、電子機器の受託生産の世界最大手である台湾企業フォックスコン(鴻海科技集団)は既に、今後の成長分野として医療関連技術に着目し、進出を始めている。

台湾政府はこうした動きを支援しつつ、ベンチャーを育成し、国内外の新たな市場機会に重点的に資源を投入する必要がある。そうした市場機会の1例として、臨床試験へのAI技術の活用が挙げられる。被験者の選定と試験の設計にAIを活用することで、臨床試験の効率は飛躍的に向上する。

台湾には統治の透明性や知的財産の保護という強みがあり、台湾の企業や研究所が相手なら、外国企業も個人情報に関わる高品質の医療データを安心して委ねられるはずだ。こうした信頼性の高さを強みにすれば、台湾はグローバルな製薬会社から新薬の臨床試験をどんどん受託できるだろう。

データ保護やサイバーセキュリティが重要なのは、医療分野に限らない。台湾は広い分野で強みを発揮するため、従来の得意分野にとらわれず、精力的に新たな市場を開拓するべきだ。半導体などのハードウエアの製造では、台湾は長年、技術革新をリードしてきたが、そのレガシーがあだになり、成長株の新興産業への投資が十分になされていない。

中国より信頼できるパートナー

台湾にいま求められているのは、半導体などハードウエアにおける強みに満足せず、データの解析技術を幅広い分野に生かすこと。特に中国との比較で、台湾は有利になる。台湾なら自社のデータや研究開発の成果が盗まれる心配はないと、グローバル企業が判断すれば、台湾への投資は非常に魅力的な選択肢になる。今後、知識ベースの新産業が発展し、成熟するなかで、外国投資家はデータの量だけでなく、データの質、そして透明性の高い運用管理を重視するはずだ。

今は台湾にとって願ってもない好機だ。コロナショックに加え、米中の貿易戦争と覇権争いがエスカレートし、東アジアにおけるサプライチェーンは大きく変わろうとしている。

外国企業が中国企業との技術提携に及び腰になり、サプライチェーンが再編されようとしている今、5G通信網の整備やAI関連技術の開発とテストの場として、台湾の注目度が上がるのは必至だ。台湾は既にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の加盟国として、「国境を越える個人情報保護ルール」の遵守を表明している。EUのデータ保護の基準を満たせば、東アジア、さらには世界におけるイノベーションの主要な拠点になれるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中