最新記事

人種差別

キリスト像の撤去まで求める過激な主張の根拠──黒人差別反対運動

Activist Says Whiteness Has Always Been Violent

2020年6月25日(木)16時00分
キャサリン・ファン

お馴染みのイエス・キリスト像こそが白人による抑圧の象徴? Alessandro Bianchi-REUTERS

<南軍の将軍や建国の父の彫像が次々に破壊・撤去されるアメリカで、キリスト像こそが白人至上主義のプロパガンダと攻撃される理由>

人種差別に対する抗議デモの広がりに伴い、南北戦争の記念碑などが次々に撤去されているアメリカで、ついにイエス・キリスト像までが槍玉に上がっている。

制度的な人種差別の象徴だとして、ツイッターでイエス像の撤去を呼びかけたのは、市民活動家のショーン・キング。脅迫コメントの殺到を受けて、「キリスト教白人至上主義者」の暴力を糾弾している。

「イエス像を撤去したら『おまえを殺す』という脅迫を、この48時間に約500件受けた。驚きはしない。キリスト教白人至上主義者の暴力性は今に始まったことじゃないからだ」──キングは6月24日にそうツイートした。

ミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドが白人警官に拘束されて死亡した事件をきっかけに、アメリカでは長年にわたる組織的な人種差別に抗議するデモが広がり、各地で南軍の記念碑やコロンブス像などが破壊されたり撤去されたりしている。

キングは22日、「肌の白いヨーロッパ人」としてイエスを描いた彫像や壁画やステンドグラスなどは「白人優位主義の一形態」であり、「抑圧の道具」として創作された「人種差別主義のプロパガンダ」であるとして、破壊すべきだとツイートした。

「イエスは黒人だった」説

キングの主張は、現在のパレスチナで生まれたイエスが白人であるはずはなく、むしろ黒人だったはずだ、という説に基づいている。
白い肌のイエスを擁護する人々は、キリスト教という宗教ではなく、白人優位のイデオロギーを信奉しているのだと、キングは断じる。

「イエスは金髪碧眼でなければならないと言うなら、その人が信じているのはキリスト教ではなく、白人優位主義だ。この国では何百年間も、宗教としてのキリスト教ではなく、キリスト教の衣をまとった白人優位主義がまかりとおってきた」

キングのツイートは反発と嘲笑の的になったが、こうした過剰反応こそが自分の主張の「正しさを証明している」と、23日にキングはツイッター上で反撃した。

「私は敬虔なキリスト教徒で、正式に叙任された聖職者であり、長年主任牧師を務めてきた。キリスト教世界の内部における白人優位主義に対する私の批判が気に入らず、私を殺したいとまで思うなら、そう思う側に問題がある。一部キリスト教徒の白い肌へのこだわりは、いつの時代にも危険なものだった」

キングは浅黒い肌をしたイエス像をアップしている。英BBCがドキュメンタリー番組のために再現したイエスが生まれた当時のパレスチナの男性の顔だ。彼に言わせると、これは最もイエスの実像に近い描写だ。

キングはニューヨークのブルックリンに本拠を置く活動家で、かつては「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事)」運動のリーダーの1人だったが、主宰する組織の不正会計疑惑で激しい批判を浴びた時期もある。

その組織「ジャスティス・トゥギャザー」は、警察の暴力の被害者と家族を支援する名目で寄付を募っていたが、既に解散。2万7500ドルの寄付金の払い戻しを要求されたが、いまだに応じていないという。

【話題の記事】
「OK」のサインは白人至上主義のシンボルになったので、一般の方はご注意下さい
写真撮影で「怪しいOKサイン」を出したテーマパークのスタッフが解雇
巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

20200630issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月30日号(6月23日発売)は「中国マスク外交」特集。アメリカの隙を突いて世界で影響力を拡大。コロナ危機で焼け太りする中国の勝算と誤算は? 世界秩序の転換点になるのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは一時156.21円、34年ぶり高値

ビジネス

日経平均は反発、日銀現状維持で一段高 連休前に伸び

ビジネス

ANAHD、今期営業益予想18%減 コロナ支援策の

ビジネス

村田製、発行済み株式の2.33%・800億円を上限
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中