最新記事

アメリカ経済

2度目のロックダウンで米企業10兆ドルの「債務爆弾」が破裂する

A $10 Trillion Corporate Debt Bomb is Waiting to Explode the U.S. Economy

2020年7月30日(木)18時55分
ブレンダン・コール

米証券市場はまだ新型コロナ第2波を織り込んでいないが時間の問題か(ニューヨーク証券取引所) Lucas Jackson-REUTERS

<コロナ前から過剰債務が懸念されていた米企業。FRBと米政府が行った巨額支援策も借金体質に拍車をかけた。今や資金繰りはパンク寸前だ>

IMFは今年1月、新型コロナウイルスのパンデミックが始まる前から警告を発していた。アメリカをはじめ主要な経済大国は、世界経済の減速に対して十分な備えができていないと──。

この半年間にアメリカで起きたこと、つまりコロナ禍による大量失業と相次ぐ企業倒産を振り返ると、その崩壊の規模とスピードは「減速」などという言葉ではとても言い尽くせない。

しかもパンデミックはもう1つの爆弾をアメリカ経済に投げつけようとしている。その爆弾とは、米企業の抱える膨大な債務だ。

アメリカ経済は長年、借金に支えられてきた。1980年代以降、政府と企業、消費者の抱える債務残高はGDPの2倍を上回ってきた。2008年の金融危機後に金利が記録的に低下したため、債務はさらに大幅に膨れ上がった。

米企業の社債発行残高は10兆ドルを超え、アメリカの2019年のGDP21.5兆ドルの半分近くに上っている。提携による融資や中小企業向け融資など、他の形態の債務も加えると、企業の債務残高はなんと17兆ドルに上ると、フィナンシャル・タイムズは今月伝えた。

FRBがテコ入れしても

「債務の増加により、経済がますます不安定になり、アメリカはコロナ危機のようなショックに弱い体質になっていた」と、ニューヨークのアデルフィ大学のロバート・ゴールドバーグ准教授(専門は金融学、経済学)は本誌に語った。

それでなくても膨大だった米企業の債務はここ数カ月、「100年に1度の危機」でさらに大きく膨れ上がった。

3月には州や市当局がロックダウン(都市封鎖)を発令。社債市場は事実上取引停止の状態に陥り、新たな社債の発行、特に非投資適格級債(ジャンク債)の発行による資金調達はほぼ不可能になった。

債券市場を活性化するため、FRB(米連邦準備理事会)は社債市場への介入を宣言。流動性を改善するため、7500億ドルの社債を購入した。

加えて中小企業に対する支援を開始、6000億ドルの融資枠を設けて、資金調達が困難な中堅・中小企業の支援に乗り出した。企業の倒産を防ぐこの施策で、債務はさらに積み上がった。

FRBの支援策は、主に投資適格級の債券市場のテコ入れを狙ったものだが、この介入によりここ数カ月ジャンク債の発行が「急増している」と、マサチューセッツ州のベントリー大学のデービッド・ガリー教授(経済学)は本誌に話した。

短期的に資金調達ができても、「いま多額の債務を抱えている企業が、長期的に生き残れる保証はない。旅行・レジャー産業はなおさらだ」

【関連記事】「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏GDP、第1四半期改定は前期比+0.3% 

ワールド

EXCLUSIVE-米財務省、オーストリア大手銀に

ワールド

焦点:米の新たな対中関税、メキシコやベトナム経由で

ビジネス

ブラックストーン連合、LSEG全保有株売却 20億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中