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中国はなぜ尖閣での漁を禁止したのか

2020年8月20日(木)18時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

実際は、米海軍空母ロナルド・レーガンは、8月1日午後6時2分に横須賀港から出港し、東シナ海へと向かい、さまざまな演習をしながら8月19日未明に台湾海峡の南端にあるバシー海峡を抜けてフィリピンの方に向かっただけのことだ。13日には台湾海峡に差し掛かった。

しかし、アザール厚生長官の訪台に抵抗するために中国人民解放軍「東部戦区」は「その13日」に合わせる形で、台湾海峡周辺で複数の軍種が参加した実践的な軍事演習を行っていた。

CCTVではキャスターが「台湾独立分子の動きに高度に警戒し、全ての必要な措置をとる」と高らかに宣言していた。しかし、東部戦区軍隊はロナルド・レーガン号が通り抜けるタイミングに合わせて演習を行っただけで、空母は何も、東部戦区の人民解放軍を見て「怖気づいて去っていった」わけではない。

ところが特別番組でも「走人了」という文字を用い、「尻尾を巻いて逃げていったよ」と軍事評論家が誇らしげに笑って見せていたのである。

笑えなかったのは、どうやらアメリカが射程1600キロの超長距離キャノン砲を「韓国か、日本か、あるいはフィリピン」のどこかに配備しようとしているということを解説した時だった。

仮に韓国に配備すれば目の前に北京があるし、フィリピンに配備すれば目の前に南シナ海がある。

日本になど配備してみろ。日中友好は無くなると思え」と言わんばかりの口調で、言葉の裏には「安倍は習近平を国賓として日本に招待しようと思ってるんだろ?やれるなら、やってみろ」と、日本の「弱み」をせせら笑っているかのようだった。

特別番組ではまた、アメリカの偵察機E-8Cが8月5日、民間の旅客機に偽装して中国の広東省沿岸に接近し、偵察を行ったと軍事評論家が解説していた。

そして今年は朝鮮戦争勃発70周年記念だが、朝鮮戦争が始まった時(1950年6月)、アメリカはまさか中国が参戦する(1950年10月)とは思わなかっただろうが、「アメリカよ、あの時のような判断ミスをするなよ」と番組参加者は気炎を吐いていた。

日本で敏感海域漁労禁止令が注目されるわけ

日本がこの禁止令に注目するのは、当然のことながら、中国が言うところの「敏感海域」が日本の尖閣諸島周辺を含んでいるからだ。

そして二つ目の理由は、あれだけ連日のように尖閣諸島周辺の接続水域および領海に中国公船が侵入していたのに、禁漁が解禁になった瞬間に「漁船は尖閣諸島周辺に行ってはならない」という指示が出たのを知ったからだろう。そのギャップに日本は驚き、「何が起きたのか?」と理由を探そうとし、中には習近平の権力闘争とか北戴河において習近平の外交姿勢が批判されたからだといった「とんでもない」推測まで、まことしやかに日本では流布している。

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