最新記事

独占インタビュー

イアン・ブレマーが語る「コロナ後」「Gゼロ」の新世界秩序(前編)

LIVING IN THE GZERO WORLD

2020年9月18日(金)17時00分
ニューズウィーク日本版編集部

コロナはGゼロ世界で起きた最初のグローバル危機と語るブレマー Janet Jarchow

<未曾有のコロナ危機を拡大させた世界に対する怒りと、知識人たちが続ける「空騒ぎ」への皮肉、それでも未来の国際秩序に絶望しない根拠――稀代の国際政治学者が本誌で8ページにわたり語ったアフターコロナの国際情勢>

主導国なき世界は経済の非効率を招き、各地で深刻な対立を引き起こす──。今から約10年前、国際社会でリーダーシップを担う国が不在となる「Gゼロ」の世界に警鐘を鳴らした国際政治学者イアン・ブレマーの予見は今、次々と現実になっている。
20200908issue_cover200.jpg
その後に誕生した米トランプ政権は中国との露骨な対立に乗り出し、世界経済は米中の貿易戦争の余波を受けて疲弊した。対立と不和はアメリカの同盟国にも「感染」を広げている。鋭い洞察力で国際情勢の本質を見抜いてきたブレマーは、新型コロナウイルス後の世界をどう見通しているのか。国際秩序はどのように変化し、その中で日本が進むべき針路はどこにあるのか──。本誌コラムニストで「全米最高の教授」の1人サム・ポトリッキオ(ジョージタウン大学教授)によるロングインタビューに、そのヒントを探る。

新型コロナと世界秩序

ポトリッキオ この先の世界はどうなるのか、あなたの大胆な予測を聞かせてほしい。まずは1年半後だ。

ブレマー いま起きていることには驚いていない。アメリカと中国のテクノロジー冷戦や多方面にわたる両国関係の悪化、アメリカ大統領選の結果がひどくゆがめられたものになるリスク......。どれも今年の初め、つまり新型コロナウイルスの感染爆発が現実の脅威となる前から予測されていた事態だ。だから驚く必要はない。新型コロナウイルスで何かが変わったわけではない。ただ予測された変化が劇的に加速されただけだ。

私の言う「Gゼロ」の世界は、つまるところアメリカが国際社会での指導的な役割を放棄し、結果としてアメリカの同盟諸国が分断され、衰退するロシアがアメリカやヨーロッパを恨んで手段を選ばぬ復讐に走る一方、台頭する中国がアメリカ的な基準や価値観、社会制度を決して受け入れない世界を指す。

どれも、ずっと前から予測できたことだ。私はずっと前からそう言ってきたが、みんな耳を貸さなかった。当座の商売は順調だし、世界は安定していて、目に見える危機もなかったからだ。

しかし突然、危機が降り掛かってきた。それも私たちにとっては未体験の危機、Gゼロ時代で最初の危機だ。そしてこの危機はエスカレートし、ひどくなる一方だ。

これから1年半後には、きっと5年か10年分の大きな変化が起きる。例えば新型コロナウイルスのワクチン開発だ。アメリカと中国は、協力するどころか張り合っている。お互いに非難し合い、テクノロジー冷戦は激化するばかりだ。両国の関係は日に日に悪化していて、今後もこの傾向は続くだろう。

アメリカをはじめとする主要な民主主義国で国内の不平等が拡大するだけでなく、豊かな国と新興諸国の間のグローバルな格差も拡大する。先端技術とそれを推進する企業のもたらす破壊的な影響は、ほかの経済セクターに、また資本主義そのものに、そして人々の働き方にも及ぶ。

新型コロナウイルスが新しい世界秩序をつくり出しているとは、私は思わない。その新しい秩序について、私は何年も前から語ってきた。ただ多くの西洋人が、とりわけアメリカの人が、それに気付こうとしないできただけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

イーサ現物ETF上場承認に期待、SECが取引所に申

ワールド

ロシア軍が戦術核使用想定の演習開始、西側諸国をけん

ビジネス

アングル:米証券決済、「T+1」移行でMSCI入れ

ビジネス

米国株式市場=小幅高、エヌビディア決算前に様子見も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル写真」が拡散、高校生ばなれした「美しさ」だと話題に

  • 4

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の…

  • 5

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 6

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中