最新記事

カマラ・ハリス

インド系カマラ・ハリスが副大統領になってもインドと蜜月にならない理由

HARRIS'S INDIAN DILEMMA

2020年9月11日(金)14時40分
山田敏弘(国際ジャーナリスト、マサチューセッツ工科大学〔MIT〕元安全保障フェロー)

ハリスが副大統領になると米印関係はどう変わるのか JONATHAN ERNST-REUTERS

<副大統領候補にハリスが指名されたことでインド国内はお祭り騒ぎに。だがイスラム教徒を抑圧し、カシミール問題への他国の関与を拒絶するモディ政権はむしろ米民主党を警戒している>

8月19日、カリフォルニア州選出のカマラ・ハリス上院議員が正式に民主党の副大統領候補に指名された。ハリスは母親がインド出身の移民ということもあり、米インド系移民団体などは「インド系アメリカ人がアメリカで本当のメインストリームになる」と大絶賛している。

ハリスの指名は、インド国内でも大きな反響があった。メディアやSNSでは彼女のインドのルーツが話題になり、お祭り騒ぎになった。インドメディアでは、モディ首相のおかげで近くなった米印関係のさらなる関係強化を期待する声が上がった。

だが現実には、民主党が副大統領候補としてハリスを選択したことは今後、インドとの関係で問題を引き起こす可能性がある。米国内外で「両刃の剣」にもなりかねない。

その理由の1つに、モディが率いる与党「インド人民党(BJP)」がヒンドゥー至上主義政党であり、それに米民主党がどう対応していくのかがある。モディ政権は昨年12月、不法移民に市民権を与えるインド市民権改正法(CAA)を成立させたが、それまでも疎外してきたイスラム教徒のみを対象外にし、各地で抗議デモが発生した。

人権や公民権などを重視する米民主党はこの事実にどう対応するのか。少なくとも、中国のウイグル族に対する抑圧を批判しつつ、インドのイスラム教差別に目をつむるのはダブルスタンダードと言われかねない。

実はモディ政権は以前からハリスの言動を警戒している。特に、インドが絶対的ライバルであるパキスタンと領有権を争うカシミール問題についての発言だ。カシミール紛争はインドで最もセンシティブな問題の1つで、他国の関与を一切拒絶してきた。

カシミール地方とは、インド北部とパキスタン北東部に広がる地域のことを指す。インド側カシミールにはイスラム教徒が多く暮らすこともあって、1949年に特別な自治権が与えられたが、モディは2019年8月に自治権を剝奪。しかも現地が暴発しないよう、厳しい外出禁止令を敷いた。住民は何カ月もインターネットやスマホの通信を禁止され、多くが仕事すらできない状態に陥った。

この事態に、当時ハリスはモディ政権を批判し、「必要なら介入もある」と発言。また、別のインド系の米下院議員がカシミールの通信遮断を中止するよう促す議会の決議を求めた際も、ハリスは支持を表明している。

こうした動きから、モディ政権はハリスの副大統領候補指名を、もろ手を上げて歓迎するわけにはいかない。それどころか、激震が走ったはずだ。

【関連記事】副大統領候補ハリスが歩み始めた大統領への道 バイデンが期待する次世代政治家の「力」
【関連記事】カマラ・ハリスは2024年のアメリカ大統領になる!【パックン予測】

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、新たな対イラン制裁発表 イスラエルへの攻撃受け

ワールド

イラン司令官、核の原則見直し示唆 イスラエル反撃を

ワールド

ロシア、5─8年でNATO攻撃の準備整う公算=ドイ

ビジネス

4月米フィラデルフィア連銀業況指数、15.5に大幅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲…

  • 7

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 8

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 9

    インド政府による超法規的な「テロリスト」殺害がパ…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中