最新記事

ドイツ

ロシアの毒殺未遂にメルケルが強気を貫けない理由

Limited Sanctions for Navalny Poisoning?

2020年9月17日(木)17時10分
ブレンダン・コール

magw200917_Merkel2.jpg

建設中のノルドストリーム2(2019年9月) STINE JACOBSEN-REUTERS

現在は国際戦略研究所の上級研究員を務めるグールドデービスは「不思議なことに、トランプ政権はノルドストリーム2の建設をやめさせたいはずなのに、ナワリヌイ事件についてはほとんど言及していない」と指摘する。

「逆にメルケルはナワリヌイ事件を強く非難しているが、ノルドストリームについての発言はほとんどない。こうしたドイツとアメリカの立場の違いから矛盾が生まれ、さらに悪化していくのか。それとも意見の調和は可能なのか。その点が問われている」

パイプラインから撤退?

ロシア政府の経済顧問を務めたアンダース・オスルントは、ロシアにどのような制裁を科すにしても、アメリカの主導の下で行うべきだと主張する。「実行しやすいのは、ロシアのソブリン債を制裁対象として、外国市場での借り入れコストを引き上げる方法だ」と、オスルントは言う。「ロシア経済は、2014年にアメリカとEUが行った制裁の傷痕がまだ十分に癒えていない」とも、彼は言う。

ロシアを含む各国で諜報活動に携わった元CIA工作員のスティーブン・ホールは、制裁がどれだけ効果を持つかは疑問だと言う。「制裁については既に手詰まり感がある」と、ホールは本誌に語った。「西欧諸国が本気でウラジーミル・プーチン(大統領)に対抗したいなら、制裁よりも効果的な方法を見つけなくてはならない」

アメリカの元駐ロシア大使で、反トランプの急先鋒でもあるマイケル・マクフォールは8月、ワシントン・ポスト紙に寄稿。ナワリヌイ事件へのトランプの対応を批判し、「ロシアについては善と悪の境界が明白であり、トランプは悪の側にいる」と書いた。

そうなると全てはEUに、しかも加盟国で一番の経済大国であるドイツに託される可能性がある。だがドイツが総工費95億ユーロ(約1兆2000億円)規模のパイプライン事業を中止するには、国外で起きた殺人未遂について国内世論が高まることが必要だ。しかも、この事業にはヨーロッパ12カ国から約100社が参加している。中止によって甚大な経済的損失を被るのはドイツだけではない。

昨年12月には、アメリカがこの事業の参加企業を対象にした制裁を決定し、主要な参加企業の一部が建設作業を停止していた。メルケルは、ドイツがアメリカの圧力に屈したようには見えない形でこの事業から手を引くには、今がチャンスだと計算しているのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中