最新記事

日本社会

日本学術会議問題に僕たち映画人が声を上げた理由(森達也)

Why We Have to Fight Back

2020年10月13日(火)17時00分
森 達也(映画監督、作家)

アメリカのアフガン侵攻から20年近くが過ぎるが、この間に僕のスタンスは微妙に変化した。それを強引に言葉にすればアンガージュマン(政治や社会に対する積極的な関与)。特に第2次安倍政権が始まって以降、安全保障関連法や共謀罪、特定秘密保護法などが国会で(数の力で)強行採決されるたびに、国の形がどんどん変わってゆくことを実感して、座して沈黙するだけでよいのかと自問自答していたことは確かだ。

とにかく数分は考えた。でも答えは決まっている。特に映画に仕事として関わる人ならば、「自分たちの問題と捉え」ることには理由がある。僕は井上に了解と返信し、是枝に賛同人依頼のメールを送った。すぐに「もちろん賛同します」と返信が来た。

声明公開後、ネット上では多くの賛同と、それを上回る批判の声があふれた。批判の多くは、「左派学者を応援する左派映画関係者」とか「反自民の左巻き監督たち」とか「中国共産党の手先である学者と映画関係者」などと揶揄する書き込みばかりだ。

だから改めて思う。ここは絶対に引けない。「よほど暇なんだな」「映画だけ作っていればいいじゃないか」などの書き込みも多い。もちろん本業は映画制作だ。映画だけを作っていたい。でも(もう1回書くが)「自分たちの問題と捉え」ることには理由がある。政治権力の暴走や社会のセキュリティー意識の高揚の前では、自分たちがいかに無力であるか、その歴史を僕たちは知っている。

赤狩りを喜んだ米国民

第2次大戦終結後、資本主義・自由主義陣営の西側諸国と共産主義・社会主義陣営の東側諸国との対立が激化して、冷戦の時代が始まった。特にハリー・トルーマン米大統領が共産主義封じ込め政策(トルーマン・ドクトリン)を議会で宣言した1947年以降、米国内における共産党員やそのシンパに対するレッドパージ(赤狩り)は激化した。多くの文化人や作家、芸術家などが、「自分は共産党員でもシンパでもない」と議会で証言することを迫られた。

もちろん、共産党員であったとしても違法ではない。何よりも、アメリカの憲法修正第1条は思想や信条の自由を保障している。しかし旧ソ連と共産主義者に対する不安と恐怖を燃料にした赤狩りはその後もエスカレートを続け、下院非米活動委員会から特に標的とされたのは、社会に対する影響が最も大きいと見なされたハリウッド映画だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時間後

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 6

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 7

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中