最新記事

米大統領選2020 アメリカの一番長い日

中国が本心ではトランプ再選を望む理由

BEIJING VIEWS U.S. IN TERMINAL DECLINE

2020年11月13日(金)15時30分
ラッシュ・ドシ(ブルッキングス研究所中国戦略イニシアチブディレクター)

加えて、2017年1月にトランプが大統領に就任する直前に、中国の国家戦略の指針となる新しいフレーズが登場した。すなわち、世界は「100年に1度の大きな変化」を経験している──清代の屈辱を覆して、習近平(シー・チンピン)国家主席の時代に中国の地位が上昇すると主張し始めたのだ。

この包括的な言葉は、習の主要な演説や公式文書で、さらには中国の戦略家や学者によって、幾度となく誇らしげに使われている。外交政策の演説に関する党幹部向けの公式文書には、次のようにある。

「欧米の政権は(世界を)支配しているように見えるが、世界情勢に介入する意欲と能力は低下している。アメリカは、世界の安全保障と公共財の提供者であることをもはや望んでおらず、代わりに一方的で国家主義的でさえある対外政策を追求している」

習は2018年に対外政策の会合で次のように述べた。「中国は近代以降、最高の発展期にあり、世界は100年に1度の大きな変化の段階を迎え、これら2つの流れは同時に組み合わされ、相互に影響し合っている」

この時期、中国の著名な外交政策の専門家はさらに大胆な発言をしていた。「100年に1度の大きな変化」の「大きな変化」とは、中国とアメリカのパワーバランスの変化だと論じていたのだ。

南京大学国際関係研究院の朱鋒(チュー・フォン)院長は、欧米諸国はポピュリズムに屈し「西が衰退して東が台頭する」時代になったと宣言。清華大学の外交政策専門家、閻学通(イェン・シュエトン)は「トランプが米主導の同盟システムを破壊した」おかげで「冷戦終結以降、中国にとって最高の戦略的な好機」が訪れたと論じた。「世界秩序は単一の超大国と複数の大国から、2つの超大国と複数の大国という形に変わりつつある」と豪語したのは中国人民大学国際関係学院の金燦栄(チン・ツァンロン)副院長だ。

このように中国のアメリカに対する評価は新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が起きる前から変化していた。そしてこのときもまた、こうした変化が中国に戦略の転換を促した。トランプの大統領就任後の1年間に習は一連の重要な演説で「韜光養晦」の時代は過去のものとなり、今や中国は「世界の舞台の中心」に進もうとしていると宣言した。

この3回目の戦略転換は野心的な「膨張」戦略と呼んでいい。自国の影響が及ぶ範囲をアジアにとどめず、アメリカが打ち立てた世界秩序を根底から揺さぶる戦略だ。

トランプの大統領就任後、習は繰り返し「グローバルな統治システムの改革を率いる」意欲を見せつけ、世界が直面する危機に「中国の解決策」を提供すると誓った。

習政権はまた、戦略転換の一環として中国軍を世界中に拠点を持つグローバルな軍隊に育てる計画を推進。国際金融の米ドル支配を揺さぶるデジタル通貨の発行を準備し、国際機関で発言力を高め、第4次産業革命では欧米勢と互角の勝負をすると気を吐いている。これらは全て凋落するアメリカに代わって世界のリーダーとなるための計画だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中