最新記事

ワクチン

新型コロナワクチン開発「ビオンテック 」の創業者夫妻はトルコ系移民で注目集まる

2020年11月13日(金)17時00分
モーゲンスタン陽子

BioNTech創業者夫妻  BioNTech社ホームページより

<新型コロナウイルスのワクチン開発成功と発表したドイツの「バイオンテック」社の創業者夫婦はトルコ系移民家庭出身で、そのことも話題になっている......>

新型コロナウイルスのワクチン開発成功(90%以上の人の感染を防ぐことができると発表)のニュースにドイツが沸いている。イエンツ・シュパーン保健相が、約10か月という驚異的な速さでパンデミック終焉の可能性が見えてきたこと、またその立役者がドイツ企業であることを非常に誇らしい面持ちで発表した。「今週2つ目のすばらしいニュース」と報じる報道機関もあった。

移民の成功物語

1つ目のすばらしいニュースとはアメリカ大統領選でのバイデン氏が当選を確実にしたことだ。ドイツでのバイデン氏の評価は非常に高い。ドイツ公共放送連盟ARDの調査によると、10人中9人がバイデン氏当選を「好ましい」「非常に好ましい」と考えている

また、移民家庭出身である副大統領選出のカマラ・ハリス氏についても大きく報じられた。実は、今回ワクチン開発に成功したバイオンテック(bioはドイツ語では「ビオ」だが、社名はここでも「バイオンテック」bye-on-techと発音されている)の創業者はトルコ系移民夫妻である。

夫妻には春頃から注目が集まっていたが、その功績が、移民、とくにトルコ系ドイツ人に対する根強い差別解消につながるのではないかと、こちらの面でも大きな期待が寄せられている。

何世代も埋まらない亀裂

6月以降、アメリカのBLM運動の影響を受け、ドイツでも人種差別や外国人差別に関する議論がさかんに行われてきた。とくに、147万以上の移民(2019統計)、さらにドイツ生まれや一部トルコ系などを加えると約400万人以上ともいわれる最大のコミュニティを形成するトルコ系の人々の抱える問題は、その歴史から見ても格別なものだ。

1961年、ドイツは外国人労働者の募集に関してトルコと協定を締結。その後73年の募集停止までの12年間で約90万人が「ガストアルバイター(ゲストワーカー)」として西ドイツに移住した。73年以降は、ドイツ国内にいるトルコ人の家族らがやってきた。

あくまでも一時的な労働力招聘と考えられていた計画だが、人間の人生の数年を都合よく切り取れるはずがない。トルコ人たちはやがてドイツに根づき、ドイツ生まれの二世、三世が育っていった。しかしながら、大量にやってきた労働者への反発も強く、ドイツ社会とトルコ人コミュニティとの間の亀裂は2020年の今でも深いままだ。今年2月にも、ハーナウ市で外国人、とくにトルコ系を標的とした銃乱射事件があり、多数の犠牲者が出た。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中