最新記事

事件

麻薬関与疑惑の町長、襲われ銃殺 フィリピン、3年で自治体幹部19人犠牲の恐怖

2020年12月7日(月)19時32分
大塚智彦

何者かに銃撃され死亡したシーザー・ペレス町長 ABS-CBN News/YouTube

<麻薬取締りのためには殺害も許されるという国で、また地方の首長が何者かに襲われた──>

フィリピン・ルソン島ラグナ州ロスバニョス町の庁舎敷地内で12月3日午後8時45分ごろ、同町のシーザー・ペレス町長(66)が正体不明の男性とみられる犯人から銃撃を受けて射殺される事件が起きた。地元警察は現場から車で逃走した殺人犯の行方を追っているが、これまでのところ有力な手掛かりはみつかっていないという。

地元メディアの報道によると、ペレス町長は、麻薬関連犯罪の撲滅を目指すドゥテルテ大統領の肝いりで捜査当局が作成した「麻薬犯罪に関与した疑いのある人物リスト」に名前が記載されていたという。ただ、今回の射殺事件が麻薬犯罪と関連したものであるかどうかは現時点では判明していない。

フィリピンではこうした麻薬犯罪に関連した捜査で、司法手続きによらない現場での「超法規的殺人」を含めた強硬手段が横行しているほか、地方公共団体の長や司法関係者さらに記者などのマスコミ関係者に対する襲撃、射殺事件があとを絶たず、人権団体やキリスト教組織などから「法に基づく公正な対応」をドゥテルテ政権に求める声が高まっている。

庁舎裏口に駐車した車から銃撃

3日夜、町役場庁舎の裏口から出て乗車しようとしたペレス町長が襲撃され、町長は頭部に1発、胸部に2発の銃弾を受けて近くの病院に搬送されたが、約30分後に死亡が確認されたという。

地元紙「インクワイアラー」などによると、庁舎の裏口に設置された監視カメラに事件の約2時間前から不審なバンが停車しており、犯行後に現場から走り去っていることから、銃撃犯はこのバンの車内から発砲して逃走したとの警察の見方を伝えている。

ベレス町長は町のゴミ分別やプラスチック製レジ袋の使用禁止など環境問題で指導力を発揮したほか、仕事に即応できるようにと庁舎内に泊まりこむことも多かったなど、町政の手腕に対する評価は高く、麻薬事案への関連は否定していたという。

ラグナ州知事や周辺の市町村関係者からは犯行を強く非難する声明が出され、特に州知事は警察に対して「迅速な捜査で犯人の逮捕」を要求する事態となっている。

3年間で19人の自治体幹部が殺害

地元紙の報道などによると、過去3年間で殺害された市町村など地方公共団体のトップやナンバー2など幹部は合計で19人に及ぶという。

2018年7月2日にはルソン島北部タナウアン市で市役所の朝礼に参列していたアントニオ・ハリリ市長が付近の藪に潜んでいたスナイパーによって狙撃、射殺される事件も起きている。

この事件が起きた7月には他にも3日にルソン島北部ジェネラルティニオの町長、7日にルソン島カビテ州のトレスマルティレス副市長、11日に南部タウイタウイ島のサパサパ副町長が射殺されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中