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福祉の現場で頻発するハラスメントの背景に、男性管理職の行き過ぎた偏り

2020年12月23日(水)16時15分
舞田敏彦(教育社会学者)

一部自治体の福祉産業の歪んだ構造は是正を促すレベルにある AndreyPopov/iStock.

<福祉・介護業界では、全体の就業者と比較して管理職が男性に著しく偏っている>

滋賀県の社会福祉法人の理事長から性被害やハラスメントを受けたとして、女性職員が訴える事件が先月、起きた。つい昨日(22日)も、宮城県の法人理事長のパワハラで保育士17人が一斉退職したニュースが報じられた。

こうやって明るみになる事件はまれで、実態としては数えきれないほど起きていると推測される。その背景として、就業者の多くは女性であるにもかかわらず、経営者は男性で占められているという、福祉産業の構造が挙げられる。立場上弱い人が強い人から被害を受ける、失職や報復の恐れから被害を訴えられない、訴えても相手にされない――こういう現実がありそうだ。

就業者(現場要員)の多くは女性、しかし経営者の多くは男性。こうした歪みを統計で可視化するのは難しくない。上記の滋賀県の社会福祉法人は障害者福祉事業を主に行っているようだが、当該産業の就業者の男性比は37.9%なのに、管理職に限ると70.1%も占めている(2015年、『国勢調査』)。この対比から、管理職が男性に偏っているのは明らかだ。

管理職が男性にどれほど偏っているかは、管理職の男性比が、就業者全体の男性比の何倍かで数値化できる。管理職の男性偏り度が大きい20の産業をピックアップすると<表1>のようになる。

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福祉(赤字)、小売業、病院といった産業が目につく。これらの産業で働く人は女性が多いが、管理職に絞ると男性が多くを占めている。

首位の児童福祉産業では、就業者全体では7.9%しかいない男性が、管理職では56.9%も占めている。男性から管理職が出るチャンスは、通常の7.21倍であることが分かる。大変な偏りだ。保育所や幼稚園を見ても、保育士や教諭は女性が大半にもかかわらず、法人理事や園長は男性が多いのはよく知られている。

もはや人為的な是正が必要なレベルだ。上表にリストアップされた産業では、権力関係に基づくハラスメントが横行していないか、従業員へのアンケートなどを行って点検する必要があるだろう。

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