最新記事

ロシア

ナワリヌイ釈放要求デモはロシアをどう変えたか

Alexei Navalny Inspires Big Anti-Putin Protests, but No Russian Spring—Yet

2021年1月26日(火)18時23分
デービッド・ブレナン

過去1年間はプーチンにとって、パンデミック発生当初の「不在」を批判されるなど困難な年だった。プーチンは、接触した医師が新型コロナウイルスに感染したことから、4月初頭に自主隔離を発表。権限や責務の多くを、政府の下部組織や地方自治体の指導者に委譲せざるを得なくなった。

パンデミックの影響で、プーチンの任期延長を可能にする憲法改正案をめぐる国民投票は4月から6月に延期になった(投票の結果、78%の賛成で2036年まで続投可能に)。国家目標に掲げていた、国民の生活水準の向上を図るための数々のプロジェクトも先延ばしとなった。

パンデミックを受けてロシアは全土でロックダウンの導入を余儀なくされ、国民の生活水準は向上するどころか、大幅に低下した。プーチンにとってレガシーを築く重要な年になるはずだった2020年は、新型コロナウイルスに振り回される1年となった。

プーチンと与党・統一ロシアが次に狙っているのは、9月に実施される連邦下院選挙で圧勝することだ。しかしパンデミックやナワリヌイの問題、国民の間にくすぶる不満が影を落としている。

選挙であからさまな不正操作が行われれば、さらなる騒乱や暴動が起こる可能性がある。「政府が現状を軽視していると国民が感じた時に、どのようなことが起こるのか。私たちはベラルーシ(の大規模な反政府デモ)でそれを目の当たりにした」とガレオッティは指摘する。

国内での支持獲得に足掛かり

23日の抗議デモで注目すべきは、多様な人々が参加していたことだ。これまで抗議デモを主導してきた若いリベラル派の活動家が参加者の大半を占めていたのは相変わらずだが、彼らが訴えた腐敗や縁故主義、説明責任の欠如への不満は、あらゆる層の国民の共感を呼ぶものだ。

ナワリヌイはこれまで、西側諸国では注目されてきたものの、ロシア国内で支持基盤を築き、活動の機運をつかむのには苦慮してきた。国営メディアからは要注意人物と見なされ、プーチンは公の場でナワリヌイの名前さえ口にしなかった。2020年の暗殺未遂を経て1月にロシアに帰国した後も、それは変わっていない。

彼がロシア国民の間でどれだけの支持を得ているのかは不明だが、少なくともナワリヌイが誰であるかは、徐々に知られ始めている。

「実は国民の過半数は、ロシア政府がナワリヌイに毒を盛ったとは信じていない。自作自演か、あるいは何かの間違いだったと思っているのだ」とガレオッティは言う。「だがある意味、それはさほど重要な問題ではない。重要なのは、この一件でナワリヌイがその存在を知られる人物になったことだ。彼が最も苦労してきたのが、そこなのだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中