最新記事

地球

「2度の氷河期で、北極海が淡水化していた」との研究結果

2021年2月5日(金)17時30分
松岡由希子

北極海は、厚さ900メートルの棚氷で覆われ、淡水で満たされていた...... Credit: Alfred Wegener Institute/Martin Kunsting

<「北極海は、少なくとも2度の氷河期で、塩水がなくなり、その代わりに、厚い棚氷の下で大量の淡水に満たされていた」との研究が発表された......>

北極海は、過去15万年の間に少なくとも2度、厚さ900メートルの棚氷で覆われ、淡水で満たされていたことが明らかとなった。

独アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所(AWI)とブレーメン大学海洋環境科学センター(MARUM)の共同研究チームは、2021年2月3日、「北極海とこれに隣接するノルディック海は、少なくとも2度の氷河期で、塩水がなくなり、その代わりに、厚い棚氷の下で大量の淡水に満たされていた」との研究論文を学術雑誌「ネイチャー」で発表した。

数千年にわたって淡水化していた?

最終氷期で特に寒冷期であった約6〜7万年前、欧州北部や北米の大部分が棚氷に覆われていた。欧州の棚氷はスコットランドからスカンジナビア半島を経てロシア北部カラ海の東まで達し、北米では現在のカナダの大部分が2つの巨大な氷床の下に埋もれ、グリーンランドやベーリング海の沿岸の一部も氷河に覆われていたと考えられている。

研究チームは、当時の北極海の状況を解明するべく、塩水中でウランが崩壊すると生成され、海洋堆積物の中に捕捉される「トリウム230」をもとに、北極海、フラム海峡、ノルディック海で採取した計10個の海洋堆積物の地質分析を行った。

その結果、同一の間隔でトリウム230が存在しなかった。これは、塩水がなかったことを示すものだ。研究チームでは、「約13〜15万年前と約6〜7万年前、北極海とノルディック海は、棚氷の下に淡水が溜まり、数千年にわたって淡水化していたのではないか」と考察している。

北極の氷塊が海洋循環を妨げていた

北大西洋や太平洋と複数の海峡でつながっているにもかかわらず北極海が淡水化した要因として、研究論文の責任著者のルーディガー・ステイン博士は「氷河期の海面は現在よりも最大130メートル低かったうえ、北極の氷塊が海洋循環を妨げた可能性がある」と指摘

たとえば、ベーリング海峡やカナダ列島の入り江などは当時、海面上にあり、太平洋とのつながりが完全に切断されていた。

また、淡水から塩水へのシフトは比較的短期間で起こっていたとみられる。研究論文の筆頭著者のヴァルター・ゲーベルト博士は「氷の壁が機能しなくなると、北極海は再び、塩水で満たされ、淡水と入れ替わり、淡水はノルディック海やグリーンランド-スコットランド海嶺から北大西洋へと急速に放出される」との仮説を示す。

北極圏からの淡水の放出は、最終氷期の急激な気候変動の要因となった可能性もある。ゲーベルト博士は「淡水の放出と気候変動が互いにどのように関連しているかについて、さらに詳しく調べる必要がある」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日本製鉄、USスチール買収「強い意志でできるだけ早

ワールド

プーチン氏「ロシアを脅かすこと容認せず」、対独戦勝

ワールド

中国輸出、4月前年比+1.5% 輸入と共にプラス転

ワールド

お知らせ=重複記事を削除します
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中