最新記事

ポピュリズム

トランプは生き延び、極右思想は世界に拡大し続けている

FAR-RIGHT EXTREMISM IS A GLOBAL PROBLEM

2021年2月16日(火)11時25分
ヘザー・アシュビー(安全保障・外交専門家)

大統領選を目前に控えミシガン州のオークランド郡国際空港で開かれたトランプの支持集会。マスクなしの参加者も多かった JOHN MOORE/GETTY IMAGES

<アメリカやノルウェー、ニュージーランドでテロを起こし、ポピュリスト政治家に影響を与えて一般的な政治思想になった。極右イデオロギーはもはや特定の国の内政問題ではない。この脅威とどう闘うか>

(2月16日発売の本誌「ポピュリズム2.0」特集より)

ブラジルからアメリカ、ハンガリー、そしてニュージーランドに至るまで、極右思想とそれを信奉するグループは民主主義社会の深刻な脅威となっている。

アメリカのドナルド・トランプ前大統領が一定の支持を今も得ていること自体、極右の脅威が世界で拡大し続けていることの証左だ。
20210223issue_cover200.jpg
ニュージーランドのクライストチャーチでは2019年3月、極右の男がモスク(イスラム礼拝所)を標的に連続銃乱射事件を起こし、50人以上が死亡した。事件を受けてジャシンダ・アーダーン首相はこう述べた。

「分断とヘイトの思想や言葉は過去数十年間も間違いなく存在していた。だが、広がりの形や組織拡大の手段がこれまでとは異なる」

もし社会にできた亀裂を埋め、平等や法による統治、いかなる人も分け隔てなく受け入れる市民社会、人権尊重という目標に近づく望みがあるならば、アメリカは極右主義の広がりと闘うために他の国々や国際機関・組織と手を組むべきだ。

アメリカの中枢を襲った同時多発テロと、それに続く「グローバルな対テロ戦争」(と、アメリカの指導者たちは形容した)から20年近くを経た今、世界は新たな脅威に直面している。

2000年代から10年代にかけて、国際社会がアルカイダやIS(イスラム国)といった、特殊な解釈の「イスラム教」を信奉しテロを正当化する集団に気を取られている間に、極右主義は世界中で勢力を伸ばしていた。

ソーシャルメディアやインターネットの会議室は、離れた場所にいる人々が考えを共有し、つながる重要な手段を提供した。

ヨーロッパの多くの地域において、右翼のイデオロギーやグループは決して目新しいものではない。

だが2010年代に極右勢力が急拡大した背景には、イスラム諸国からの移民の増加やEU域内での人の移動の増加、そしてその反動としてポピュリスト政治家たちが極右思想を発信し、それが市民権を得たことがあった。

magSR20210216globalproblem-3.jpg

011年にノルウェーで発生した連続テロ事件の現場となったウトヤ島の対岸で犠牲者を悼む市民 JEFF J MITCHELL/GETTY IMAGES

ノルウェーでは2011年7月、極右思想を信奉するアンネシュ・ブレイビクがオスロなどで連続テロ事件を起こし、77人が死亡した。ブレイビクは犯行声明の中で、イスラム教徒の支配と多元文化主義からヨーロッパを守る必要があると主張した。

この事件を受けてノルウェーは法改正を行い、テロリスト犯罪の成立要件を変更。また、個人の国境を越えた活動を他の国々で監視できるよう、犯罪捜査で得られた指紋情報をアメリカやEUと共有することに同意した。

2016年にはヘイトスピーチ撲滅に向けた国を挙げてのキャンペーンが始まった。社会ぐるみでの取り組みにより極右主義やヘイトスピーチの脅威と闘うという、ノルウェーにとって重要な価値観の定着に一般市民も積極的に関わることとなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トルコ・ギリシャ首脳が会談、ハマス巡る見解は不一致

ワールド

ロシア軍、北東部ハリコフで地上攻勢強化 戦線拡大

ビジネス

中国、大きく反発も 米が計画の関税措置に=イエレン

ビジネス

UBS、クレディS買収後の技術統合に遅延あればリス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中