最新記事

フランス

フランス・リヨン市、環境派市長「給食を肉なしメニューに統一」で大論争に

2021年2月26日(金)17時30分
冠ゆき

学校給食が「肉なしメニューに統一」? 2019年、学校を訪れたマクロン大統領 Ludovic Marin/ REUTERS

<フランス・リヨンの市長が、市内の学校206校の給食を肉なしメニューに統一すると関係者に通達し、激しい非難の的となっている。その内実は...... >

2月15日、フランス、リヨンの市長は、冬休み明けの2月22日から、市内の学校206校の給食を肉なしメニューに統一すると関係者に通達した。ところがこの決定は、激しい非難の的となり大きな議論を巻き起こしている。それは一体なぜなのか?

2020年6月選挙で躍進を遂げたエコロジー党

リヨン市長グレゴリー・ドゥセは、ヨーロッパ・エコロジー=緑の党(EELV)に属する。EELVはその名の通り環境派、左派の政党だ。

現フランス大統領のエマニュエル・マクロンは、2016年大統領選に名乗りを上げるにあたり、中道政党である「共和国前進」を結成した。現閣僚メンバーの大半は共和国前進あるいは同盟党に属している。とはいえ共和党前進は、議員の離党により2020年5月以来、国民議会の単独過半数を失った状態が続いている。それに続く2020年6月の統一地方選挙では、EELVが歴史的な躍進を遂げた。これによりストラスブール、ボルドー、ブザンソン、トゥールなど中大都市がEELV色に塗り替えられた。フランス第三の都市であるリヨンも同様だ。

「多くの子供たちは、学校給食でしか肉を食べられない」と批判

こうした背景もあり、強い批判の言葉を投げかけているのはみな中道か右派所属の政治家だ。「子供たちにイデオロギーを押し付けている」と言ったのは、先の地方選で敗れた共和党のエティエンヌ・ブラン(20minutes, 2/20)、「フランスの農家と精肉業者への許しがたい侮辱だ」と付け加えたのは、ジェラルド・ダルマナン内相だ(ル・モンド紙, 2/22)。上院の共和党代表を務めるブリューノ・ルタイヨーは「全体主義的」という言葉まで持ち出して非難した。21日には、ジュリアン・ドゥノルマンディ農相が、当件はローヌ県県知事に付託するとツイートする事態にまで至った(フランス・アンフォ、2/22)。

イデオロギーの観点以外からも、ダルマナン内相は、環境派の考えはエリート主義で庶民を排除するものだと非難している。ダルマナン内相は「多くの子供たちは、学校給食でしか肉を食べられない」状況にあると考えるからだ。共和党に属するリヨンの市議会議員ベアトリス・ド・モンティーユも同様に、「グレゴリー・ドゥセは、選挙運動時の公約を急いで実現するために、(パンデミックが原因の)衛生上の規制を利用している。質素な家庭にとっては、給食は子供たちが唯一肉を食べられる場所であることが多いのに」とツイートしている。

リヨン市長の説明

これらの激しい批判に対し、グレゴリー・ドゥセ市長は、肉なしのメニューのみとする措置は復活祭休暇(4月)までの暫定的なものであると強調。また、今回の措置による料理は、肉はなくとも魚や卵を含む非ベジタリアンメニューであり、EELVが目指す「2022年から毎日給食の選択肢に付け加えるベジタリアン料理」とは異なるものだと明言。さらに、当措置の目的は、あくまでも「配膳をスムーズにする」ことにあると主張する。

実際、フランスでは、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるため行動制限策の再強化が図られ、食堂での子供同士のフィジカルディスタンスも、これまでの1メートルから2メートルへと変更されたところだ。(フランス政府サイト, 2/2)リヨンの学校は従来ならアントレ3種、メインディッシュ2種(肉または魚)から一つずつ選択する形をとっていたが、それでは配膳に時間がかかりすぎ、フィジカルディスタンスを守りながら全員が時間内に食事を終えるのは困難だし、普段から肉料理以外を選ぶ子供が半数以上であったため、肉なしメニューに統一したのだという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀には追加策の余地、弱い信用需要に対処必要

ビジネス

訂正(17日配信記事)-日本株、なお魅力的な投資対

ワールド

G7外相会議、ウクライナ問題協議へ ボレル氏「EU

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明へ、無所属
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 7

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中