ルポ新宿歌舞伎町「夜の街」のリアル

【コロナルポ】若者が感染を広げているのか? 夜の街叩きに火を着けた専門家の「反省」

2021年4月2日(金)16時45分
石戸 諭(ノンフィクションライター)
    ホストクラブ「OPUST」に集う20代のホストたち

    開店前のホストクラブ「OPUST」に集う20代のホストたち HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

    <感染症対策の名のもとで特定の産業や人々が差別され、排除すら望まれる──歌舞伎町と若者たちにはそんな視線が向けられていた。ノンフィクションライター石戸諭氏が、世代間分断を生んだ専門家に迫る>

    (本誌2020年8月4日号「ルポ新宿歌舞伎町『夜の街』のリアル」特集から全文を2回に分けて転載。本記事はその後編です)

    ※ルポ前編はこちら:【コロナルポ】歌舞伎町ホストたちの真っ当すぎる対策──「夜の街」のリアル

    取材に応じた「キーマン」

    ファクトとエビデンスは、時に差別にお墨付きを与える。「夜の街」「若者」で感染が拡大しているという言葉が、専門家から無防備に発せられるとき、それは事実であるからこそ、安全のためには彼らを排除しなければならないという社会的な感情を後押しする。

    若者が危ない──。そんな意識が広がったのは、政府が設置した専門家会議のメンバーで、かつてWHO(世界保健機関)でSARS(重症急性呼吸器症候群)封じ込めの陣頭指揮を執った疫学者・東北大学教授の押谷仁が3月2日の記者会見で漏らしたひとことだった。

    「若年層で感染が大きく広がっているエビデンスはないが、そうでないと説明がつかない」

    このひとことにメディアは飛び付いた。確かに事実だったのかもしれない。だが、結果として広がったのは街を歩く若い世代への「けしからん」という感情だったように思える。

    ある時期を境に、ぱったりとメディアの取材を避けるようになった押谷が取材を受ける、それも東京都内で直接会って、と返事をくれた。7月6日、指定された施設の一室には、メールの返信や資料の整理に追われる押谷が1人で座っていた。ホワイトボードには、何かのシミュレーションとおぼしき数字が並んでいた。

    私は専門家の発言が世代間の分断を生み出し、安易なバッシングを強めたのではないか、と聞いた。質問を鋭いまなざしで聞いていた押谷は、「僕らも反省しなければいけない」、と静かな口調で言った。

    押谷の見解──「確かに『若年層クラスター』と呼んで、そこで世代間対立を生んでしまったところがあった。例えば、大阪のライブハウスを見ると20代、30代だけではなく、その上まで幅広い年齢層の人たちがいて感染が広がっていた。このウイルスは、50代くらいまでは重症化リスクが比較的低く、60代以降になると急激に上がっていくので、『若年層』という言い方はよくなかった」

    大切なのは感染の連鎖を断つこと。前述した高橋の「懸念」を押谷たちも共有している。避けるべきは無症状、軽症かつアクティブに動き回る人々から40代、50代に感染が広がり、そしてハイリスクな高齢者施設や病院内感染へ広がっていくことだ。

    特に介護現場は「濃厚接触」なしには成り立たない。そこで接触を減らすという対策は現実的ではない。だからこそ、まずは感染しているリスクが高い集団を検査し、感染の連鎖を断ち、ウイルスをハイリスク群に持ち込まない策を取る必要がある。

    「例えば国民全体にPCR検査を2週間続けたとしても、今日陰性だった人が明日陽性になるかもしれなくて、その人はもう既に感染させているかもしれない。だから結局、やみくもに検査をやっても感染を制御できない。ですが、早くに感染している確率の高い人々を見つければ、その周りの感染連鎖を断つことができる。それが非常にうまくいったのは、大阪のライブハウスです」

    2月に発生した大阪のクラスターは、ライブハウスが大阪府からの要請で店名公表に応じ、そこにいた人々が名乗り出やすい環境をつくったことで、ある時点で感染連鎖を断つことができた。店名公表も状況によっては効果があり、状況によっては逆効果になる。選択は常にケース・バイ・ケースだ。

    本誌紹介

    特集:世界が尊敬する日本人100

    本誌 最新号

    特集:世界が尊敬する日本人100

    免疫学者から歌舞伎役者、ユーチューバーまで世界が認めた日本の天才・異才・鬼才100人

    2021年8月10日/2021年8月17日号(8/ 3発売)

    人気ランキング

    • 1

      恐竜絶滅時に起きた高さ1500mの津波 その痕跡がアメリカの地下に眠っていた

    • 2

      大江千里がアメリカで感じた東京五輪の空虚さと違和感

    • 3

      誰にも聞こえない周波数で歌う世界一孤独な「52ヘルツのクジラ」の謎

    • 4

      気候変動の影響で地球の自転軸がずれた──最新研究

    • 5

      中国発の大ヒットSF小説『三体』に秘められた中国的…

    • 6

      太平洋上空の雲で史上最低気温、マイナス111度が観測…

    • 7

      こんなに動いていた! 10億年のプレートの移動が40秒…

    • 8

      自宅療養で人々を見殺しにすると決めた菅首相

    • 9

      「反マスク派」ポスターを剥がした女性、仕込まれて…

    • 10

      仮説上の天体『テイア』の遺物が地球深部に存在する…

    • 1

      東京五輪、中国人バド選手が韓国ペアとの試合中に「罵倒」連発で騒動に

    • 2

      いくら太陽光発電所を作っても、日本の脱炭素政策が成功しない訳

    • 3

      恐竜絶滅時に起きた高さ1500mの津波 その痕跡がアメリカの地下に眠っていた

    • 4

      1匹だけみにくい子猫、病気と思ったら「オオカミ」だ…

    • 5

      ドラァグクイーンと子供のふれあいイベントが抗議殺…

    • 6

      福山雅治ほどの温厚な人を怒らせた「3つのスイッチ」とは

    • 7

      大江千里がアメリカで感じた東京五輪の空虚さと違和感

    • 8

      パリ五輪ロゴの出会い系アプリ激似説がネットで再燃

    • 9

      なぜ日本男子は世界で唯一、女性より幸福度が低くなる…

    • 10

      女子陸上短距離ジョイナーの「伝説と疑惑の世界記録…

    • 1

      東京五輪、中国人バド選手が韓国ペアとの試合中に「罵倒」連発で騒動に

    • 2

      1匹だけみにくい子猫、病気と思ったら「オオカミ」だった

    • 3

      加害と向き合えない小山田圭吾君へ──二度と君の音楽は聴きません。元いじめられっ子からの手紙

    • 4

      20万円で売られた14歳日本人少女のその後 ──「中世に…

    • 5

      「無駄に性的」罰金覚悟でビキニ拒否のノルウェー女…

    • 6

      「1日2個、カットしてスプーンで食べるだけ」 メンタル…

    • 7

      「競技用ショーツが短すぎて不適切」英パラ代表選手…

    • 8

      人間のオモチャにされたイルカ死ぬ──野生動物に触る…

    • 9

      韓国で、日本製バイクの販売が伸びている理由

    • 10

      いくら太陽光発電所を作っても、日本の脱炭素政策が…

    もっと見る

    Picture Power

    レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

    【写真特集】ウトヤ島乱射事件、惨劇の被害者との10年目の再会