最新記事

韓国

訪米控える韓国・文在寅の苦悩 「民主主義と人権に反する愚行」と米議会に切り捨てられ...

2021年4月23日(金)17時41分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
韓国の文在寅大統領

Kim Min-Hee/Pool via REUTERS

<5月下旬に訪米し、米国のバイデン大統領と首脳会談を行う文在寅大統領だが、アメリカでの居心地は悪いかもしれない>

青瓦台(韓国大統領府)は16日、文在寅大統領が5月下旬に訪米し、米国のバイデン大統領と首脳会談を行うと発表した。康珉碩(カン・ミンソク)報道官は「強固な韓米同盟の持続的発展などについて深く議論することになる」と強調したが、内心では気が気でないかもしれない。

日本政府が東京電力福島第1原発の処理済み汚染水を海洋放出する方針を決めたことに対し、韓国政府は猛反発。米国に理解を求めたが、訪韓したケリー特使に突き放されたのは周知のとおりだ。

また、読売新聞の2日付の報道によると、米国のサリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官は、韓国の徐勲(ソ・フン)青瓦台国家安保室長に対してクアッド参加を強く求めたという。しかし、中国の反発を警戒する韓国は、クアッド参加に及び腰だ。

そしてもうひとつ、韓国政府は対米関係で頭痛のタネを抱えている。北朝鮮の人権問題だ。米議会で非常に重みを持つとされる米下院トム・ラントス人権委員会が15日、「韓国の市民的・政治的権利:朝鮮半島の人権に及ぼす影響」をテーマにオンライン聴聞会を開催。その場では、韓国国会で昨年末に成立した「対北朝鮮ビラ禁止法」に対する批判が飛び交った。

同法は、軍事境界線一帯でビラを散布するなど南北合意書に違反する行為を行った場合、3年以下の懲役または3000万ウォン(約280万円)以下の罰金に処することができると定めたものだ。保守系野党は反対したが、圧倒的多数を握る与党・共に民主党が単独で強行採決した。

北朝鮮へのビラ散布を巡っては、金正恩朝鮮労働党委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長が昨年6月4日に発表した談話で、韓国政府の責任を問う立場を表明。ビラ散布に対する法規制などの措置を要求し、開城工業団地内にあった南北共同連絡事務所の爆破などで揺さぶりをかけてきた経緯がある。

(参考記事:【写真】水着美女の「悩殺写真」も...金正恩氏を悩ませた対北ビラの効き目

そのため同法については、「文在寅政権と与党が北朝鮮の脅しに屈し、北朝鮮国民の人権と韓国の言論の自由を犠牲にした」との批判が強い。トム・ラントス委員会の共同委員長を務めるクリス・スミス下院議員(共和党)も、「民主主義の原則と人権に反する愚行」であるとの声明を発表している。

同委の公聴会について、韓国政府は表向き、気にしない態度を見せている。しかしその実、「対北ビラ禁止法を管轄する李仁栄(イ・イニョン)統一相は相当に焦っており、『米国の批判にどう対応したら良いのか』と、今になって北朝鮮の人権問題専門家に助言を求めている」(消息筋)という。

ウイグルやチベット、香港の人権問題で中国を激しく圧迫するバイデン政権は、北朝鮮の人権問題にも厳しい態度を示している。公聴会での反応をホワイトハウスがすくい上げるならば、対北融和を優先し、人権問題から目を背けてきた文在寅氏は、米国で極めて居心地の悪い思いをすることになるかもしれない。

(参考記事:「文在寅一派はこうして腐敗した」韓国知識人"反旗のベストセラー"が暴く闇

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中