最新記事

新型コロナウイルス

コロナに勝った「中国デジタル監視技術」の意外に地味な正体

BIG BROTHER VS COVID

2021年5月6日(木)18時40分
高口康太(ジャーナリスト)

一例を紹介しよう。湖北省孝感市にある農村、袁湖村の共産党書記の奮闘について、中国ウェブメディア・棱鏡が取り上げている。

村に通じる道路は土砂を積んで封鎖したが、強引に突破する者がいたためセメントで補強した。法事を予定していた14世帯を一軒ずつ回って中止するよう説得した。街に住む孫に食べ物を送り届けたいという老人をなだめ、プロパンガスが切れたという家には数日だけたき火で我慢してほしいと諭す。

400万以上の基層組織一つ一つでこうした涙ぐましい活動が繰り広げられていた。

日本と異なるアプリ設計思想

魔法とは対照的な泥くさい活動、地味な接触機会の削減、それを監督するマンパワーが、中国のコロナ対策の成功をもたらした。

大動員は効果的な一方で、物心両面に多大な負担をもたらす。そこで登場するのが、デジタル技術による効率化だ。

デジタル技術の中でも、最も大々的に利用されたのが「健康コード」というスマートフォンアプリだ。その役割は2つ、直近の滞在地の証明と、訪問先の記録である。

前者については主に携帯電話の基地局記録を参照。どこに滞在していたかを証明する極めて強力な手段となる。後者は訪問した建物ごとにQRコードを読み込むことで、その場所を訪れたという記録を取るチェックイン機能だ。

筆者は昨年2月下旬にコロナ取材のため、広東省深圳市を訪問したが、当時は紙に名前と電話番号と体温を記録するというアナログな形式で記録していた。記録を残しておけば、もし感染者が見つかっても、同じ時間にその場所にいた人を見つけ出すことができる。

健康コードならば、QRコードの読み込みだけで同じ記録が収集できるほか、最初からデータ化されているため集計の手間が省ける。さらに高速鉄道や飛行機などの搭乗記録と組み合わせることによって、より詳細な滞在場所の記録をデータベース化することができる。

「誰が、いつ、ここを訪問したのか。その時に発熱はあったのか」

記録する情報は極めてシンプルで、政府のクラウドに記録されているため、チェックイン機能は拡張がしやすい。

昨年春にはテンセント(騰訊)などのITベンダーから、健康コードと連動する顔認証タブレットが販売された。オフィスや学校の入り口に設置し、訪問者は顔を向けるだけで、体温測定を含めたチェックインが完了する。健康コードの読み込みや検温で混雑し、いわゆる3密にならないように開発された。

スマホのアプリを使わずともチェックインできるのが、中国が監視国家たるゆえんだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中