最新記事

仮想通貨

本気で国の未来をビットコインに賭けたウクライナ...その内情と勝算

KYIV’S BET ON BITCOIN

2021年6月18日(金)18時25分
エリザベス・ブラウ

だがマイニング作業の消費電力は膨大で、昨今は多くの国の政府や専門家が、仮想通貨の環境負荷は高過ぎると警鐘を鳴らしている。米電気自動車大手のテスラはビットコインでの支払い受け付けを停止した。こんな状況でも、仮想通貨の将来性に賭けるのは正しい選択なのか?

正しい、と信じる都市がある。スイス中部のツークだ。今年2月から仮想通貨による納税を可能にするなど、ツークはさまざまな施策で仮想通貨ビジネスを呼び込み、今やクリプトカレンシー(仮想通貨)にかけて、シリコンバレーならぬ「クリプトバレー」と呼ばれている。昨年9月時点で人口13万人足らずの都市だが、今は実に439もの仮想通貨関連企業がひしめいている。

「ツークやウクライナが仮想通貨の企業を誘致するのは正しい」と言うのは、ワルシャワ経済大学のブロックチェーン研究者カタジナ・チウパ。「仮想通貨には未来があり、誘致すればそこに根付く」

ただしスイスは国際的な汚職監視団体、トランスペアレンシー・インターナショナルの20年の腐敗認識指数で第3位、透明性が非常に高い国だ。しかも昔から匿名の金融取引や秘密口座の扱いには慣れている。

ダークな面に対処できるか

それでも仮想通貨には、アナログな秘密口座とは異なる不正利用のリスクがある。取引の記録(ブロックチェーン)に実名を記入する必要がないので、どうしても犯罪絡みの送金に使われやすい。

保険仲介大手のマーシュ・アンド・マクレナンによれば、昨年上半期にサイバー攻撃の身代金としてハッカーに支払われた金額の98%はビットコインを使っていた。

こうしたダークな側面に、ウクライナは対処できるだろうか。悲しいかな、この国の腐敗認識指数は昨年段階で117位だ。もちろん国民は腐敗の一掃を願っており、だからこそ一昨年には政治経験ゼロのウォロディミル・ゼレンスキーが大統領に選ばれた。しかし透明性を高める改革は遅々として進まない。

これにはIMFも懸念を表明している。ただでさえ不透明な国に、あえて不透明な金融取引を求める人が集まればどうなるか。「腐敗で悪名高い国で、仮想通貨を使った匿名の取引が自由にできるとなれば、マネーロンダリング(不正資金の洗浄)の温床となる可能性が高い」と前出のチウパは指摘する。

ハイテク分野の起業家からデジタル転換省副大臣に転じたボルニャコフは、もちろんそんなリスクを承知している。

「新たな技術革新は往々にして犯罪者に利用される」とボルニャコフは言う。「だがリスクと同時に可能性も考慮すべきだ。仮想通貨が犯罪者に利用されることは十分に承知している。しかし、現金だって犯罪に使われている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中