最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナ根絶は理論的に可能...集団免疫なくとも NZ研究

2021年8月17日(火)18時15分
青葉やまと

再びマスクをつけるロンドンの人々 REUTERS/Henry Nicholls

<天然痘の根絶よりも難しいが決して不可能ではない、と研究チームは分析している>

長期化する新型コロナだが、根絶を諦めるのはまだ早いようだ。ニュージーランドの研究チームがこのたび、コロナ根絶は難しい試みではあるが不可能ではないとの試算結果を発表した。

研究チームは根絶の可能性を評価するため、17の指標を評価項目として取り上げ、それぞれを3点満点で評価した。指標は、ワクチンの入手可能性や長期的な免疫の実現性、公衆衛生対策による影響などの疫学的要因から、政治上のメッセージと国民の関心など、社会的要因までを含む。

結果、新型コロナウイルス根絶の可能性を示す平均スコアは1.6となり、ポリオ(急性灰白髄炎、あるいは小児麻痺とも呼ばれる)よりも撲滅の可能性がやや高いことが判明した。これを受けて研究チームは、新型コロナの根絶は不可能ではないとの見解を示している。

本研究はオタゴ大学ウェリントン校のニック・ウィルソン医学博士らのチームが実施し、結果が医学誌『BMJグローバル・ジャーナル』に掲載された。研究は現時点で予備研究の段階にあり、今後査読を経て正式な論文となる。

天然痘より難しく、ポリオよりやや容易

WHOが1980年に根絶を宣言した天然痘は根絶可能性のスコアが2.7となっていることから、スコア1.6の新型コロナは天然痘よりも格段に根絶が難しいと研究チームは分析している。

一方、ポリオのスコアは1.5となっているため、新型コロナの根絶はポリオと同程度あるいはやや可能性が高いという試算結果となった。ポリオは根絶まであと一歩というところまで来ており、厚労省検疫所は現在世界が「ポリオを撲滅させる道程の99%」の地点にあるとしている。

野生型ポリオには3つの型があるが、2型はすでに撲滅し、3型も過去9年ほど野生型による患者は確認されていない。1型株の感染例は近年でも各国で数例ほど報告されているが、継続的に感染が起きている感染常在国はアフガニスタンとパキスタンのみとなった。新型コロナウイルスの撲滅がこれよりも実現しやすいという試算結果が真実ならば、将来的に地上から新型コロナが消える可能性は十分に残されていることになる。

アジア太平洋の成功例に希望

ポリオの例に限らず新型コロナについても、いくつかの国と地域ではすでに封じ込めに成功している。時期によって多少のぶり返しはあるものの、台湾、ニュージーランド、シンガポールなどは優れた対応が功を奏した代表例だ。研究チームはこうした実例の存在も、試算上だけではなく現実にコロナの撲滅が可能であることを示すものだとしている。

オタゴ大学が発表したニュースリリースのなかでウィルソン教授は、「国家単位での新型コロナウイルスの排除は、アジア環太平洋地域のさまざまな場所で、これまで長期に渡って達成・維持されてきました。これは世界規模での根絶が可能だということを示唆するものです」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中