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「まずは私たちの惑星を救おう」──宇宙旅行に熱心な億万長者に否定的な声多数

2021年8月2日(月)17時10分
松丸さとみ

いずれにせよ、ブランソン氏とベゾス氏が、同じ月に同じような宇宙空間へと旅立ったわけだが、ここに宇宙開発企業スペースXのイーロン・マスク氏が加わり、「宇宙レース」が加速することは必至だと見られている。

ブランソン氏の会社では、来年にも宇宙観光の開始を予定している。最大25万ドル(約2740万円)という搭乗券は、600人がすでに手付金を支払っているという話だ。

「宇宙開発よりもまずは地球保護を」

しかし、ヨーロッパが大洪水に見舞われ、北米では記録的な酷暑になるなど、気候変動が原因と思われる自然災害に多くの人が苦しむ中、先を競うように宇宙旅行をする億万長者に対して、否定的な声も少なくない。

米ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、ブランソン氏やベゾス氏、マスク氏が宇宙事業に取り組む理由は、気候変動から人々を救うためだ。遠い将来、地球に住めなくなったときに他の惑星に移ることを視野に入れ、その最初の一歩として、宇宙観光を位置付けているのだという。しかしNYTは、今回のような宇宙観光は、地球を救うどころか、むしろ大気汚染の悪化につながると指摘する複数の専門家の声を紹介している。

ブランソン氏やベゾス氏が今回行った宇宙旅行は、地球を周回することなく戻ってくるため、「準軌道(サブオービタル)」と呼ばれている。

NYTによると、こうしたフライトからの燃焼排出物が大気に及ぼす影響は、軌道ロケットと比較すると微々たるものだという。宇宙関連の研究を行う非営利団体、米エアロスペース・コーポレーションの研究者であるマーティン・ロス氏の試算では、軌道ロケットの排出レベルに達するまでに、宇宙観光企業は年間1万回もの準軌道フライトを飛ばすことができる。

とはいえ、ロケットが成層圏に残していく粒子が、太陽光を吸収したり反射したりすることで、成層圏の気候を変えたり、オゾン層に悪影響を与える可能性もある、とロス氏はNYTに話す。「今は問題ではありません」と述べつつ、「しかし何回離着陸を繰り返せば問題になるのか、予測はできません」と懸念を示した。

一方で英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、「ブランソン、ベゾス、そして億万長者の無意味な宇宙レース」というタイトルで、かなり辛辣(しんらつ)な論説記事を掲載した。億万長者たちは宇宙事業に取り組むもっともらしい理由を挙げているが、単に歴史に自分の名を刻みたいだけだ、と記事は指摘。一般市民が地上で気候変動と闘うために、食習慣を変え、旅行の手段を変え、消費生活を変えている今、このタイミングでやるべきことなのだろうか?と問いかけ、「住みにくい他の惑星を模索する前に、まずは私たちの惑星を救おうではないか」と結んでいる。

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