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米軍撤退

アフガニスタンを見捨てたバイデンの「民主主義防衛」はもう信じられない

Biden’s Democracy Agenda Just Died an Ugly Death in Kabul.

2021年8月19日(木)20時08分
エリーズ・ラボット
アフガニスタン人に銃を向ける米兵

カブール空港に入ろうとするアフガニスタン人に銃を向ける米兵 TODAY-YouTube

<民主主義陣営の結束で独裁国家に対抗すると勇ましく誓ったが、民主主義や人権をようやく手にし始めたアフガニスタンをタリバンの支配下に放り出して逃げるのか>

政権崩壊した祖国から脱出しようと、夥しい数の市民がカブール国際空港に押し寄せ、滑走路を移動し始めた米軍の輸送機にしがみつく──。

8月16日にアフガニスタンから発信され、世界を震撼させた写真や映像は、アメリカの歴史にぬぐい去れない汚点として残ることになるだろう。アメリカが自らのエートス(価値規範)を捨て去った瞬間だ。

メディアがこぞって、タリバンのカブール制圧をサイゴン陥落にたとえたのはそのためだ。アメリカ大使館の職員や家族が軍用機で脱出するというショッキングな映像が既視感を呼び覚ましたからではない。脱出劇を見て人々が抱いた感情──これからも長くわだかまるに違いない苦い感情があの時と似ているからだ。

ジョー・バイデン米大統領は16日、撤退の決断を正当化した。それを聞く限り、バイデンは人々のそうした感情を理解していないようだ。

いま問題になっているのは、撤退の是非ではない。驚くほど恥知らずな、全くアメリカらしくない撤退のやり方だ。それを目の当たりにして、アメリカ人はわれとわが目を疑った。これは自分たちの国がやることなのか、と。


政府軍の総崩れは予想できたはず

曲がりなりにも民主国家だったアフガニスタンが、テロ組織の支配下に置かれるのをむざむざと見捨てて逃げ出した。その醜態が暴き出したのは、バイデンが掲げる民主主義と人権の御旗の実態だ。声高に民主主義擁護を叫ぶバイデンは、キャンキャン鳴くだけで噛みつけない犬かもしれない。そう思わせた最新の、そして最も気がかりな事例がアフガニスタンなのである。

アフガニスタン政府軍はここ数週間で、あっという間に総崩れした。バイデン政権はそれを根拠に撤退の決断を正当化している。政府軍がバラバラに崩壊したのは、それまでこの脆弱な組織を繋ぎ止めていた接着剤、つまり米軍の兵站と心理的な支援が米軍の撤収によってごっそり剥ぎ取られたからだ。その時点で結末は見えていた。

とはいえ、タリバンがかくもたやすく全土を制圧できたのは、究極的にはアフガニスタンの人々が抵抗しなかったからだ。そもそも自分たちが支持していない腐敗した大統領と無能な政権のために、誰が命を賭して戦うだろう。バイデン政権にとって想定外だったのはそのことだ。何カ月も前から派手に赤信号が灯っていたのに、彼らはそれを見逃したのだ。

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