最新記事

テクノロジー

カード不要で楽々のはずが、モスクワ地下鉄の「顔認証」サービスが大不評

Pay for the Ride with Your Face

2021年10月1日(金)18時26分
ヤナ・パシャエバ
モスクワ地下鉄

モスクワ市内の地下鉄駅。改札口のカメラはあなたを見ている KIRILL KUDRYAVTSEVーAFPーGETTY IMAGESーSLATE

<モスクワではもうすぐ顔認証機能を利用したシステムで地下鉄に乗れるようになるが、市民はなぜか拒否反応>

もうすぐモスクワでは、手ぶらで地下鉄に乗れるようになる。切符も専用カードも不要。10月15日からは改札口のカメラと目を合わせるだけで、さっと通れる。

9月1日にモスクワ市長のセルゲイ・ソビャーニンが発表したところでは、この顔認証システムは地下鉄の全駅(約300)で使える。ただし事前に当局の専用アプリにアクセスして顔写真をアップし、料金引き落とし用の銀行口座を登録する必要がある。

後は簡単。登録者が改札口に立つとカメラが顔を識別し(マスク着用のままでもOK)、所定の口座から料金を引き落とせたらゲートが開く。この間、2秒か3秒。もちろん、嫌なら在来のカードや切符で通ってもいい。

モスクワの地下鉄は15路線あり、毎日900万人以上が利用している(ニューヨークの地下鉄は約200万人)。市当局は7月末から一部路線で実証試験を開始した。6万人以上の地下鉄職員が参加しているが、今のところ技術的なトラブルはないという。

登録者はたった1万5000人

10月15日のスタートに向けて不安はない。ただし問題が1つ――顔写真を登録した市民は8月末段階で1万5000人しかいないのだ。

人気がないのは、個人情報の提供にためらいがあるからだ。当局は不安の解消に必死で、セキュリティー部門の責任者は「この顔認証システムに氏名その他の個人情報は含まれない」とし、「情報を保存するデータセンターにアクセスできるのは内務省だけ」だと弁明している。

それでも市民は納得しない。「乗客の利便性向上」のためというのは建前で、要は監視システムを強化したいだけだろうとみている。2017年以来、モスクワ市内には顔認証機能付きの監視カメラが19万台近く設置されている。昨年には地下鉄の車両1500両に「1秒で15人の顔を識別できる」カメラを1万2300台も取り付けるという発表があった。

監視カメラは基本的に犯罪捜査に使われるが、それだけではない。昨年3月の当局発表によれば、新型コロナウイルスの感染予防を目的とする外出禁止令に違反した約200人が、監視カメラで特定されている。

モスクワでは、在宅での2週間隔離を命じられた人は当局の要請に応じて自撮り写真を所定のサイトにアップし、自宅にいることを証明しなければならない。昨年3月、ある男性はゴミを捨てるために2分間だけアパートを離れたが、たちまち監視カメラに見つかり、30分後には警官が駆け付ける事態となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア軍の上陸艇を撃破...夜間攻撃の一部始終

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 6

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中