最新記事

日本社会

視覚障がい者の私がパラのボランティアで開いた共生社会への扉

2021年11月24日(水)11時30分
※TOKYO UPDATESより転載

tokyoupdates211124_2.jpg

ボランティア仲間に点字ディスプレイについて説明する工藤氏(左)

共生社会を実現する一歩は共同作業にあり

工藤氏は今回のボランティア活動を通して、共生社会の実現のためにはコミュニケーションが欠かせないと実感したという。それに気づいたのは、健常者のボランティアの多くが、工藤氏が障がい者であることを高いハードルだと感じ、接し方などに悩んでいたと知ったからだ。

しかし、実際は目が見えないだけで、それを除けば健常者と何も変わらない、と工藤氏は言う。そこで、自分と触れ合った健常者のメンバーたちに、正しい誘導のやり方といった新しい知識や気づきを与えることを心がけた。それが、「障がい者は接しにくい」というイメージを変えるきっかけになったはずだ、という自負もある。

一方、障がい者は普段からサポートされる側にいるため、自分がボランティア活動に参加すると迷惑をかけると思い込んでいるケースが多いという。工藤氏が勤める学校の生徒たちの多くがそうした不安から消極的になりがちで、それはボランティア参加前の自分も同じだったと打ち明ける。

しかし、大会ボランティアの活動を終えた工藤氏は、健常者のボランティアから「工藤さんと一緒に活動できてとても有意義でした」「貴重な体験ができました」と声をかけられ、障がい者から健常者に与えるものがあることを実感できたそうだ。

一緒に活動することで互いに得るものがあるなら、共生社会の実現は簡単なのではないか──と肌で感じた工藤氏。今後の目標についてこう語る。「学校で生徒たちに自身の経験を伝えるとともに、ボランティア活動にも進んで参加して、障がい者の本当の姿を多くの人に見てもらう。そうすることで、障がい者と健常者をつなぐ懸け橋になりたいですね」

東京2020大会が刻んだ共生社会への確かな一歩。大会が遺したレガシーとして、次の時代を担う子どもたちへと受け継がれていくに違いない。

(取材・文/安倍季実子 写真提供/日本財団ボランティアサポートセンター)

※当記事は「TOKYO UPDATES」からの転載記事です。
logo_tokyoupdates.png

20240528issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月28日号(5月21日発売)は「スマホ・アプリ健康術」特集。健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米な

ビジネス

米年内利下げ回数は3回未満、インフレ急速に低下せず

ワールド

イラン大統領ヘリ墜落、原因は不明 「米国は関与せず

ビジネス

FRB副議長、インフレ低下持続か「判断は尚早」 慎
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 5

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中