最新記事

ネット

混乱のカザフスタン、当局によるネット遮断で数百万人がニュースもATMも使えず

2022年1月12日(水)18時22分
抗議デモで破壊されたカザフスタン・アルマトイ市街のATM

カザフスタン政府によるインターネット遮断は、1月10日で6日目を迎えた。デジタル人権擁護団体は、何百万人もの国民が、基本的なサービスを利用しにくく、また国内を揺るがす反政府抗議行動に関する情報へのアクセスも困難な状況に陥っていると話している。写真は、抗議デモで破壊されたATM。同国最大都市アルマトイで8日撮影(2022年 ロイター/Pavel Mikheyev)A view shows an ATM cash machine that was damaged during mass protests t

カザフスタン政府によるインターネット遮断は、1月10日で6日目を迎えた。デジタル人権擁護団体は、何百万人もの国民が、基本的なサービスを利用しにくく、また国内を揺るがす反政府抗議行動に関する情報へのアクセスも困難な状況に陥っていると話している。

世界のネット接続状況を監視する英「ネットブロックス」によれば、先週続けざまに暴動が発生したカザフスタンでは、10日に数時間、接続が回復したものの、まもなく再び遮断された。

ネットブロックスは「今日早い時間帯に、この5日間で初めて、短時間ではあるがネットに接続できたユーザがいた」とツイッターに投稿している。

旧ソ連からの独立以来30年間で最悪の暴動により、カザフスタン最大の都市アルマトイは、数千人の逮捕、複数の公共建造物への放火という事態に陥った。ただ、街路は10日にはほぼ平穏に戻っている。

同国のカシムジョマルト・トカエフ大統領は、クーデターの企てを鎮圧したと語った。

ネットブロックスによれば、当局は5日、ネット接続を完全に遮断したという。背景には、1日に発表された燃料価格引き上げに対する抗議が、現政権とヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領(81)に対する全国的なデモに発展する状況があった。

カザフスタンの首都ヌルスルタンの住民で、本名を伏せることを条件に取材に応じた「アイシャ」さんは、事務所で仕事をしている最中にネットが遮断され、自分の国で何が起きているのか知るための情報源が何もなくなってしまったと話す。

「私のテレビは、ネットに接続されていなければ役に立たない。ラジオはニュースをまったくやらず、娯楽番組だけを流していた」

現金以外は使用不能に

その数日前には同国西部の都市ジャナオゼンで抗議行動が始まっていたため、当局はすでに国内の一部でネット遮断、ソーシャルメディアへのアクセス制限を開始していた、とデジタル人権擁護団体のアクセス・ナウは指摘する。

スイスに本拠を置くインターネット企業「プロトン」は、抗議行動が始まったばかりの頃、カザフスタンからの仮想プライベートネットワーク(VPN)サービスへの申込みが1000%増を記録したと語った。カザフ国民がネット接続を維持しようと試みたからだ。

だが、VPN接続によりサービス停止を回避する方法も5日には使えなくなった。ネット接続が全国的に遮断されたからだ。

「VPNが有効なのは、標的型の遮断を回避する場合だ。(略) だが、ネット自体に接続できなくなってしまえば話は別だ」と、プロトンで広報を担当するエドワード・ショーン氏は語った。「物理的に接続できなければ、当社のサービスにもたどり着けない」

米国を本拠とするデジタル人権擁護関連の非営利団体(NPO)インターネット・ソサエティで欧州政府関連業務・啓発担当マネージャーを務めるカルム・ボゲ氏は、今回のネットワーク遮断は、これまでカザフスタンで見られた例のなかでも最悪だったと語る。

ネットブロックスによれば、接続は1日数時間だけ断続的に一部復旧したが、国内どこでもというわけではなかったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア軍の上陸艇を撃破...夜間攻撃の一部始終

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 6

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中