最新記事

アメリカ社会

選管担当者への恐喝、「言論の自由」が壁に トランプ派の脅迫に法改正で対応へ

2022年1月31日(月)17時05分
支持者に向けた演説をするトランプ前大統領

米国のバーモント州議会では、選挙管理担当者を脅迫した者の訴追を容易にする法案を審議中だ。アリゾナ州フローレンスで15日撮影(2022年 ロイター/Carlos Barria)

米国のバーモント州議会では、選挙管理担当者を脅迫した者の訴追を容易にする法案を審議中だ。メーン州でも、その種の脅迫行為に対する刑罰を強化する法案が提出された。ワシントン州では今月、選挙事務従事者に対する脅迫を重罪とする法案が州議会上院で可決された。

ロイターではこれまで、トランプ前大統領による根拠のない「不正投票」の主張を真に受けた同氏の支持者たちが、選挙管理当局に対する脅迫や嫌がらせを全国的に繰り広げていることを一連の調査報道で伝えてきた。上述の3州では、法案の提出者・支持者が、法的な抑制の強化を求めるきっかけの一つとしてロイターの記事を挙げた。

ワシントン州のデービッド・フロクト州上院議員(民主党)は、報道が「より多くの証拠を提供した」ことで、選挙事務従事者を脅迫する者に責任を負わせるための法案への支持が高まったと語る。

メーン州では、ブルース・ホワイト州下院議員(民主党)が起草した法案が通れば、「強制、暴力、脅迫を用いて故意に(選挙事務を)妨害する」人物に対して、これまでより重い刑罰が科されることになる。

同州のシェンナ・ベローズ州務長官は、州の市役所職員2人が暴力で脅迫されたことに言及し、「これは受け入れることができない」と訴えた。

ロイターでは、米国の選挙管理担当者や労働者に対する合計850件以上の脅迫や敵対的メッセージを報じた。ほぼすべてのメッセージが、2020年大統領選挙で敗れたのは不正選挙によるものだというトランプ氏の根拠なき主張をそのまま繰り返していた。これらの脅迫メッセージを閲覧した複数の法学教授や弁護士によれば、連邦の基準に照らして刑事訴追に値するものが100件以上もあるという。

脅迫者が起訴される事例はまれだ。だが、米法務省の選挙事務脅迫問題タスクフォースは21日、ジョージア州の選挙管理担当者3人に対する脅迫文をネットに投稿した容疑で、テキサス州在住の男性を初めて起訴したと発表した。ある司法次官補は、タスクフォースはこの事件の他にも「数十件もの」事例を調査中だと語った。

バーモント州では、ジム・コンドース州務長官とそのスタッフに対して脅迫のボイスメールが送られ、警察・検察とも不起訴を決定したことで、議員らが、言論の自由に関する強力な保護規定を設けた州法について再考しようと動き出した。今月提出された法案による2つの措置では、公務員が標的とされた場合、犯罪的な脅迫の容疑者を訴追することが今よりも容易になり、また刑罰もより重いものとなる。

身元不明の男性からコンドース州務長官のオフィス宛てに敵意に満ちたメッセージが最初に届いたのは、2020年の選挙の直後だ。この男性はその後2021年秋に、コンドース氏とそのスタッフ、さらには以前の脅迫について件の男性にインタビューを行ったロイターの記者2人に対して、脅迫のボイスメールを送った。

この男性は10月のメッセージで「正義のときは来た」と警告している。「てめえらクソったれども、すぐに頭を吹っ飛ばしてやる。確実に」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの文化」をジョージア人と分かち合った日

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 6

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中