最新記事

環境

温暖化で野草の40%が減少、朝食に大打撃が

Vanishing Flowers

2022年5月20日(金)17時30分
スプーシー・ラマン
植物

気候変動の影響で、野原に咲くありふれた花も見られなくなるかもしれない RIKE_/ISTOCK

<1990年以降、野草や野花が劇的に減っている。ハチも全体の種類の25%が絶滅したと見られる。イギリスの実験で明らかになった驚きの予測とは?>

気候変動問題と聞いて何を思い浮かべるだろう。町をのみ込む濁流や、真っ赤に燃える山林、あるいは炎天下で干上がった地表だろうか。環境問題に詳しい人なら、白化したサンゴや、地盤沈下や干ばつを逃れて集団移住する人々が思い浮かぶかもしれない。

だが、近所の原っぱに咲いている野花を思い浮かべる人はあまりいないのではないか。しかし学術誌フロンティアズ・イン・プラネット・サイエンスに2月に発表された研究論文によると、私たちが見慣れた野草も、温暖化により激減する恐れがある。

この研究は、北ヨーロッパで予想される気候変動を反映した生育環境を人工的につくり、そこで成長する野草や虫を観察したもの。それによると、未来の生育環境では一部の野花は蜜の量が60%減り、種子が小さくなったり数が減ったりして、全体量が最大で40%減る恐れがあるという。

「この結果は、地球温暖化が一部の野花と花粉媒介昆虫に重大な影響をもたらす恐れがあること、そして、この地域の植物群落は現在とは異なる構成になる可能性が高いことを示している」と、論文執筆で中心的な役割を果たした英ニューカッスル大学の研究者エレン・モスは言う。

温暖化により花粉媒介昆虫や野花の減少が加速する恐れがあることは、これまでにも指摘されてきた。だがそれが実際の生育環境で確認されたのは初めてだ。また、これまでこの種の研究は、特定の植物や昆虫に焦点を絞るものが多く、特定の地域の植物群落に注目した研究はなかった。

「この研究は、花粉媒介昆虫が複数の脅威にさらされていることを改めて明らかにした」と、ダブリン大学トリニティ・カレッジのジェーン・スタウト教授は語る。「殺虫剤や疫病や気候変動のストレスに加えて、食物や繁殖の場所を失いつつある」

研究チームは英ノースヨークシャー州の小麦畑の一角に、春まき小麦と複数の野草の種をまいた。そして一部の区画を赤外線ヒーターで暖めて、土壌の温度を平年より1.5度高くするとともに、水やりの量を40%増やして、予想される北ヨーロッパの気候変動を反映した生育環境を人工的につくり出した。

その上で、2014年と15年の2度の開花期に育った野草と花の数、蜜の量、花からできた乾燥種子の大きさと量を調べた。また、そこにやって来る花粉媒介昆虫のパターンも集めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸

ワールド

ニューカレドニアに治安部隊増派、仏政府が暴動鎮圧急

ビジネス

訂正-中国の生産能力と輸出、米での投資損なう可能性

ワールド

米制裁は「たわ言」、ロシアの大物実業家が批判
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中