最新記事

米中関係

米中「離婚」はやっぱり無理? 戦略なき対中強硬路線が自滅を招く

NOT DIVORCED JUST YET

2022年7月21日(木)16時30分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)
ブリンケンと王毅

ブリンケンは昨年3月、中国の王毅外相らと初めて対面で会談した FREDERIC J. BROWN-POOL-REUTERS

<2大経済大国の関係は依然として根強く、デカップリングは進んでいない。ビジネス界は大規模な対中投資を続け、米企業は中国にとどまる手段を探っている>

アメリカ大統領としては対照的な人物であるドナルド・トランプとジョー・バイデンに共通点があるとすれば、それは中国の戦略的脅威をめぐる警告だ。どちらも2大経済大国である米中の部分的な「デカップリング」の道を探り、中国に対する依存を減らそうとしてきた。

一方で、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は「中国製造2025」政策を掲げて米企業の排除を目指している。

確かに、テクノロジー部門やソーシャルメディアでは、厳格な検閲を行う中国との大幅な分離が進む。だが物品・サービス貿易全般で、米中のデカップリングは今も目に見える形で起きていない。米中貿易戦争をトランプが開始し、バイデンもある程度支持しているにもかかわらず、デカップリングの見込みは薄い。

アメリカにとって中国が最大の得意先市場である農産物でも、各種の原料や製造部品でも、米中の経済関係は根強いままだ。多くの部門では、さらに深度が増している。

米農務省は5月下旬に発表した報告で、今年度の農産品輸出額は中国に限っても過去最高の360億ドルに達すると予測。2年前の対中輸出額(170億ドル)の2倍以上だ。

米ビジネス界は大規模な対中投資を続け、今後も継続する意向をより強く打ち出すようになっている。2国間の貿易促進に取り組む非営利団体、米中ビジネス評議会のエバン・グリーンバーグ元会長は6月に米戦略国際問題研究所で行った講演で、デカップリングは「経済的に不可能」で、米企業は中国市場進出を加速すべきだと語った。「中国がアメリカ製テクノロジーにあまり依存しなくなれば、中国の長期的利益に対するアメリカの影響力が低下する」

在上海米国商工会議所が昨年行った調査では、中国に進出している米企業338社の約6割が、前年より投資が増加したと回答している。

中国からの安価な製品の輸入急増で、アメリカではこの約20年間に、製造業を中心に雇用者が数百万人規模で減少した可能性がある。そのせいもあって反中ポピュリズムが台頭したが、多くのエコノミストいわく、米中の経済を完全に切り離す「ハード・デカップリング」は両国に破壊的打撃を与えかねない。

もっとも、企業にとって米中貿易継続の本音は収益だ。「大儲けができるのに切り離しを望むわけがない」と、米中ビジネス評議会のダグ・バリー広報統括責任者は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反落、前日高の反動売り トヨタ決算は強弱

ビジネス

午後3時のドルは155円前半へじり高、急落時の半値

ワールド

世界の平均気温、4月も観測史上最高 11カ月連続=

ビジネス

米アマゾン、テレフォニカとクラウド契約 通信分野参
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中