最新記事

日本政治

安倍晋三は必ずしも人気のある指導者ではなかった(伝記著者トバイアス・ハリス)

CONTROVERSIAL TO THE END

2022年9月27日(火)17時50分
トバイアス・ハリス(米シンクタンク「アメリカ進歩センター」上級フェロー)
安倍晋三

2014年12月の総選挙投票前夜、自民党総裁として支援者に手を振る安倍 YUYA SHINO-REUTERS

<海外からは高く評価される安倍晋三が、国内でたたかれるのはなぜか。「国葬反対」は意外ではなく、むしろ明日への警告だ>

(※2022年9月24日執筆)

去る7月8日に奈良県内の遊説先で銃撃され、死亡した安倍晋三元首相(享年67)の国葬が9月27日に東京都心の日本武道館で行われる。参列予定者数は政府発表で約4300人。海外からはアメリカのカマラ・ハリス副大統領やインドのナレンドラ・モディ首相、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相など約700人が出席予定だ。

疲れを知らずに世界各地を飛び回り、21世紀の世界における日本の新たな役割を模索してきた故人にふさわしい顔触れがそろうと言える。

しかし各国の首脳から寄せられた深い弔意や故人に対する賛辞と、日本国民の抱く気持ちとの間には大きなずれがある。例えば日本経済新聞による直近の世論調査では、安倍の「国葬」に反対する人が60%で、賛成する人は33%にすぎなかった。

岸田文雄政権が閣議決定で(国会に諮ることなく)安倍の葬儀を国葬として行うと決めたのは7月22日だ。しかし、この決定が国民に広く支持されることはなかった。むしろ日がたつにつれて、岸田政権にとって政治的に深刻な重荷となってきた。現に首相の支持率は、国葬を前に急落している。

国葬にまつわる論争には、安倍をはじめとする自民党政治家と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係が明らかになったことが少なからず影響している。

統一教会をめぐる金銭問題があったからこそ、殺害犯の山上徹也は安倍を標的と定めることになった。自民党政治家は集票や選挙応援、資金集めなどで統一教会に依存する一方、教会による一部信者の搾取には目をつぶってきた。そのことに、自民党支持者も含め、有権者は憤りを感じている。

毎日新聞の世論調査では、岸田政権の不支持率が64%、統一教会スキャンダルに関する自民党の対応への不支持率が72%に達していた。さらに回答者の68%が、自民党は安倍と統一教会の関係についてきちんと調査すべきだと考えていた。

しかし党と教会の関係に対して世間の目が厳しくなる以前から、国葬という扱いに対する支持は高くなかった。

葬儀は政治家・安倍晋三のキャリアを締めくくるものだが、そのキャリアには絶えず物議を醸す要素があった。国葬扱いの是非をめぐって世論が二分されたのも、とかく分断を招きがちだったこの政治家にふさわしいのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

BYDが25年に欧州2カ所目の組立工場建設を計画 

ビジネス

F&LCが業績上方修正、純利益倍増 スシロー事業好

ワールド

サウジ皇太子、20―23日に公賓として来日=林官房

ワールド

トランプ氏と不倫疑惑の女性、捏造を否定 性的関係証
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 5

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中