最新記事

イラン

きっかけは1人の女性の死。今回のイラン抗議デモがこれまでと違うのはなぜか

Iran’s People Power Moment

2022年10月3日(月)16時45分
メアリー・ハリス(スレート誌)
テヘランの抗議デモ

道徳警察に対する抗議は体制批判へとつながっている(テヘラン、9月21日) WANA-REUTERS

<「ふしだらな格好」を道徳警察にとがめられた若い女性が、病院で死亡。抗議行動は全土に広がり、体制批判にも発展している。近年はデモが頻発しているイランだが、今回のデモは何が違うのか>

イランが燃えている。きっかけは1人の女性の死だ。

地方から首都テヘランを訪れていたマフサ・アミニ(22)は、地下鉄の駅を出たところで「道徳警察」に目を付けられ、連行された。

理由は、ヒジャブ(イランの女性に着用が義務付けられている髪を隠すためのスカーフ)から髪が少し出ていたからとも、ぴったりしたジーンズをはいていたからともいわれる。

残念ながら、この種の逮捕はイランでは珍しくない。そして拘束中に命を落とすことも、そんなに珍しくない。

だが、アミニの死は「イランで時々ある残念な出来事」では終わらなかった。

「病院のベッドに横たわる彼女の写真が流出したのだ」と、イラン系アメリカ人の弁護士ギスー・ニアは言う。「顔は腫れ上がり、首には分厚いガーゼが巻かれ、呼吸器につながれていた。その衝撃的な写真が、元気なときの美しい彼女の写真と共に、ソーシャルメディアで広く共有された」

イラン当局の公表したアミニが「突然倒れた」際の映像、アミニが病院のベッドに横たわる痛ましい映像も BBC News-YouTube


9月に一部の女性たちが始めた抗議行動は、たちまち男性も巻き込んでイラン全土に広がり、体制批判にまでつながっている(編集部注:9月30日、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「弾圧」で少なくとも市民52人が死亡していると発表)。

いったいイランで何が起きているのか、スレート誌のメアリー・ハリスがニアに話を聞いた。

◇ ◇ ◇


――イランでは100年以上前から、女性たちの権利獲得を目指す闘いがあった。だが、1978年からの革命でイスラム共和制が樹立されると、最高指導者のルホラ・ホメイニが、既に限られていた女性の権利を一段と奪い始めた。

公共の場や職場における女性の権利が、毎日のように削られていった。女性が判事になることが禁止され、離婚手続きを起こすことが禁止され、軍隊に入ることが禁止され、というように。

女性の結婚年齢は9歳からに引き下げられた。そして「国際女性の日」の直前に、ホメイニが官公庁で働く女性にヒジャブの着用を義務付けた。そこから着用義務が拡大していった。

――女性たちの反応は。

すぐに大規模なデモや座り込みなどの抗議行動が起きた。

――イランの女性は非常に教育水準が高いが、それでも自由を制限されている。

イランの女性は識字率が非常に高く、教育もある。男性よりも女性のほうが大卒者は多いとも聞く。

ただ、女性たちを家庭にとどまらせるよう仕向けるさまざまなルールがある。女性が外で働いたり、スキルを活用したりすることは奨励されていない。

【関連記事】デモ激化のイラン...武装警官から「命がけで女性を守る」男たちの動画が感動呼ぶ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、就任2年で会見 経済重視 

ビジネス

中国・碧桂園、元建て債利払いできず 国有の保証会社

ビジネス

アングル:状況異なる2度の介入観測、市場に違和感 

ビジネス

ブラザー、ローランドDGのTOB価格引き上げず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中