最新記事

アフガニスタン

最大1万人が参戦!? あの国の元特殊部隊隊員たちがロシアの戦力に

Recruiting Afghans

2022年10月31日(月)21時05分
リン・オドネル(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)
アフガニスタン政府軍

Mohammad Ismail-REUTERS

<ロシアを敵とみなすはずのアフガン元政府軍の精鋭たちを、ロシアの民間軍事会社ワーグナー・グループが勧誘している。アメリカや同盟国に取り残された彼らに「失うものは何もない」>

ロシア軍に参加してウクライナで戦うよう勧誘されている──アフガニスタン政府軍特殊部隊の元隊員らが、そう証言している。

アフガニスタンの情報筋によれば、同特殊部隊は20年近く、同盟各国の特殊部隊と共に戦った精鋭ぞろいだ。ウクライナの戦場で、ロシアが必要としている変化をもたらす存在になりかねないという。

昨年8月に米軍が撤退し、タリバンが再び権力を掌握すると、政府軍特殊部隊に所属していた志願兵2万~3万人は取り残される形になった。

避難できたのは数百人の上級将校だけ。タリバンが旧政権関係者を拘束・殺害するなか、兵士数千人は近隣国に脱出したが、アフガニスタンにとどまる元隊員の多くは隠れて生活している。

軍・警察などで構成されるアフガニスタン治安部隊の設立に、アメリカはおよそ900億ドルを費やした。

組織全体としては無能で、わずか数週間でタリバンに実権を奪われることになったものの、SEALs(米海軍特殊部隊)やSAS(英特殊空挺部隊)から訓練を受けた政府軍特殊部隊は常に高く評価されていた。

彼らの不屈精神を象徴するのがダウラト・アバドの戦いだ。

昨年6月、アフガニスタン北部の同地でタリバンを迎え撃った特殊部隊は、増援補給をむなしく待ちながら戦い続けた。指揮官のソラブ・アジミ少佐は50日間連続で戦場に立ち、3日間の休息の後に赴いた決戦で死亡。「国家の英雄」と見なされた。

だが今や多くの元隊員は職も希望も失い、アメリカやイギリスへの移住を待ち望んでいる。

兄弟意識で結ばれた熟練兵士は格好の勧誘対象だ。彼らがロシア軍に加われば、ウクライナでの戦況を「大きく覆すことになるだろう」と、アフガニスタン治安当局の元高官(匿名希望)は語る。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は兵力確保に苦慮するなか、悪名高い民間軍事会社ワーグナー・グループを通じて国内の受刑者の採用に動いているとされる。

ワーグナーは公式には存在しないことになっている怪しげな組織だ。プーチンと親しいエフゲニー・プリゴジンが運営者とみられ、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)経由で、プーチンが資金を提供している可能性がある。

報じられるところによれば、設立されたのは2014年のクリミア併合後。以来、シリアやリビアでも暗躍してきた。

アフガニスタンの元当局者で政府軍特殊部隊将校でもあった人物は、元隊員の採用活動の背後にいるのはワーグナーだと言う。

「ロシア軍ではない。外国の部隊を(ロシアのために)勧誘する組織はワーグナーだけだ。(元隊員は)ロシアのために戦うことを望んでいない。ロシアは敵だ。だがほかに何ができる?」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア議会、「スパイ法案」採択 大統領拒否権も

ビジネス

米ホーム・デポ、売上高が予想以上に減少 高額商品が

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の発言要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中