最新記事
ウクライナ戦争

ウクライナに「ソ連時代の核兵器」が残っていない理由...放棄しなければロシア侵攻は防げた?

Why Ukraine Has No Nukes

2024年2月7日(水)12時02分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

文書によると、クラフチュクはクリントンとの2者会談で、「ウクライナが通貨と民間投資の安定性を実現すれば、私たち大統領3人の合意が唯一可能な道だったと、誰もが納得するはずだ」と発言。その2日後、エリツィンも交えた会談では「核軍縮以外に選択肢はない」と語っている。

だが、クリントン側近の1人が「首脳会談の最高の功績」と称した3国間合意は今から思えば、ある意味でウクライナに対する裏切りだった。

20年後に約束をほごにしたプーチンと米英

クリントンとエリツィンは、ウクライナに「友好の証しとして完全な安全保障」を約束。ウクライナを含む「あらゆる国家の領土一体性や政治的独立に対する脅威、あるいは武力行使を慎む責務」についても再確認した。

94年12月にはハンガリーの首都ブダペストで開かれた会議で、米ロとイギリスが核放棄を決めたウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンに、核拡散防止条約(NPT)加盟と引き換えに安全を保障するという内容の覚書に署名した。

だが、それから20年後、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は明らかに約束をほごにし、クリミアを武力併合。さらに8年後には、ウクライナに全面侵攻した。

米英は(ブダペスト覚書が定めるとおり、国連安保理に即時支援を求めることを除けば)ウクライナを援助する法的義務はなかったものの、ロシアの行為を声高に非難することもなかった。その受け身の姿勢が、欧米は介入しないとの印象をプーチンに与え、ウクライナ侵攻に踏み切らせたという見方もできるだろう。

それでも、いずれロシアが侵攻してくると知っていたら、クラフチュクらは核兵器を放棄しなかったはずだという主張は的外れだ。94年当時、安全保障は重要だったとはいえ、合意の骨格というより「おまけ」だった。ウクライナ(およびベラルーシとカザフスタン)の核兵器は各国指導者の承認と祝福の下、廃棄される運命だったのだ。

©2024 The Slate Group

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中