コラム

トランプ支えるQアノン、ドイツに影響力飛び火 陰謀論が急増する背景

2020年10月20日(火)17時00分

ベルリンでコロナ対策の規制に反対する集会に参加するQアノン支持者 REUTERS/Axel Schmidt

<英語圏以外で世界で最大の支持者(推定20万人)を有するドイツのQアノングループは、ベルリンの大規模な反コロナ規制デモでも強い存在感を示し、ドイツ政府は困惑を隠せない......>

ネットのサブカルチャーから主流の政治運動へ

インターネット上で、奇怪な陰謀論を唱えるQAnon(Qアノン)の影響力が増大している。QAnonは、2017年から米国の4Chanフォーラムに登場した「Q」という匿名の投稿アカウントに由来する個人またはグループである。

米国におけるQAnonの影響は、いまや主流の政治運動にまで発展している。QAnon支持を公言する地方議員が選挙で当選し、11月3日の米大統領選では、QAnonがトランプ支持層の求心力となり、選挙の行方を支配すると予想する声もある。

フェイクニュースや陰謀論の大規模な拡散が「インフォデミック」である。パンデミックと歩調をあわせたように、QAnonによるインフォデミックはアメリカ国内を超えて広がり、QAnonの主張を支持、賛同する人々の群れは、今やヨーロッパにも転移している。QAnonの急拡大は何を意味しているのか?

●参考記事
トランプお墨付きの「Qアノン」が笑い事では済まされない理由

陰謀論急増の背景

明白な理由がある。インターネットは陰謀論者の天国となり、パンデミックは社会を閉鎖し人々の活動を停滞させた。人々は奇妙なアイデアに投資する時間と理由を多く持っていた。私たちは複雑な世界に生きていて、混沌とした状況を根底から解き明かす予想外の物語を強く渇望している。

QAnonのフォロワーたちが、空想的で、奇想天外な物語の餌食になったことを嘲笑するのは簡単だ。しかし、QAnonが人々の心をいかに捉え、その能力がどのように強化されてきたかについてはあまり言及されていない。

人生を支配している主流の物語も幻想であり、不条理である。主流の政治や経済、特に進歩的な政治は、21世紀についての説得力のある説明を見いだすことができないでいる。その代わりに、私たちはいつも不安定で、2009年の経済危機以降も、未だに古い経済や物語に身を委ねている。

人は説明の空白を嫌う。説得力のある説明が成されていないことを考えれば、大多数の人々が独自の物語を生み出しても不思議ではない。

ドイツで急増するQAnon支持者

英国では「子供たちを救おう」の旗の下、QAnonから影響を受けた抗議行動が20以上の都市や街で展開され、多くの女性や右翼ではない人までをも惹きつけている。しかし、QAnonが最も深く浸透している国はドイツである。

英語圏以外の、世界で最大の支持者(推定20万人)を有するドイツのQAnonグループは、ベルリンの大規模な反コロナデモにおいても強い存在感を示し、ユーチューブやフェイスブック、メッセンジャー・アプリのTelegram(テレグラム)を舞台に急速に支持者を広げている。ドナルド・トランプが悪魔崇拝者と小児性愛者によって組織された「深層国家(ディープステート)」と戦っているというQAnonの物語が、ドイツで大きな反響を呼んでいることにドイツ政府は困惑を隠せない。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

IAEA、イラン核施設に被害ないと確認 引き続き状

ワールド

オランダ半導体や航空・海運業界、中国情報活動の標的

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に

ワールド

ガザで子どもの遺体抱く女性、世界報道写真大賞 ロイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story