コラム

コロナ危機を日本が生まれ変わるきっかけに

2020年05月04日(月)11時20分
西村カリン(ジャーナリスト)

東京では少なくとも4月中旬までほぼ普通の生活が可能だった(写真は桜を見に上野公園を訪れた人たち、3月22日) Issei Kato-REUTERS

<つらい時期にこそ新たな発想が生まれる――フランスでは「不良の若者」たちがお年寄りのために買い物をして配達する動きがあった>

私は20年前から日本に住んでいるが、今年の3月中旬から、心はフランスに移動した。母国が新型コロナウイルスの感染拡大で大変な状況になったからだ。毎日フランスのラジオを聴いたり、インターネットで記事を読んだりしている。

不思議なことに、全世界が恐ろしい状況になっていても、東京では少なくとも4月中旬はまだほぼ普通の生活が可能だった。公園でたくさんのママ友が子供の面倒を見ながら会話している。高校生がバスケットボールやサッカーをしている。工事現場で作業員たちがその場に座り込んで、一緒に昼食を取っている。通勤するサラリーマンは減ったが、まだ多い。休校と休園がなければあまりにも普通の生活だ。

私はずっと違和感を覚えていた。ママ友、高校生、作業員、サラリーマンに「危険だ、危険だ」と大きい声で注意したかった。思わず言ってしまったこともある。

なぜ、多くの日本人は新型コロナウイルスの危険性を最初から意識しなかったのか。政治家のせいなのか、マスコミのせいなのか、専門家のせいなのか。たぶん、私もフランス人の専門家や医師の話を聞かなかったら、いかに今回のウイルスが恐ろしいものであるかを理解していなかった。

そして今、日本も大変な状況になっている。医療現場では苦境を訴える医師や看護師がほとんどで、政府の対応が後手に回ったのは確実だ。緊急事態宣言は発令されたが法律の面では休業要請以上の厳しい措置を取ることは難しく、政府の中でも抵抗があった。一時的に複数の県が独自の緊急事態宣言を出さなければいけなかったのは、異常なことだった。

日本は最先端技術を持つ国と考える外国人は多い。でも今回の危機ではその強みを見せられなかったし、むしろ弱点が明らかになってしまった。3月2日から休校措置が取られているが、なかなかオンライン教育が進んでいない。1999年にNTTドコモのiモードが生まれたときは、世界中の技術者が注目した。20年後の今、もはや日本はこの分野をリードしていない。私も当時は「日本すごい」と思っていた。それが今は絶望的な気分になっている。医療分野でも、日本の技術で世界中のたくさんの人の命を救うことができず残念だ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

官僚時代は「米と対立ばかり」、訪米は隔世の感=斎藤

ビジネス

全国コアCPI、3月は+2.6% 年度内の2%割れ

ワールド

ロシアが政府職員の出国制限強化、機密漏洩を警戒=関

ビジネス

G20、米利下げ観測後退で債務巡る議論に緊急性=ブ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story