内村コースケ

日本横断徒歩の旅

『窓ぎわのトットちゃん』の楽園で、「徒歩の旅」の先人に出会う

2021年03月11日(木)15時30分

    撮影:内村コースケ

    第24回 安曇追分駅 - 南大町駅
    <令和の新時代を迎えた今、名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた。>

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    「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

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    これまでの23回で実際に歩いてきたルート:YAMAP「軌跡マップ」より

    ◆「マスクの時代」にも同じ梅が咲く

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    北アルプスを望む安曇追分駅付近。梅がほころび始めていた

    あらためて説明させてもらうと、この旅は、日本列島の中央を通るフォッサマグナに沿って、東京湾岸から新潟県糸魚川市の日本海を目指す徒歩の旅だ。1回15〜20kmほど歩き、リレー方式で繋いでいく。当初は、2020東京オリンピックの前後にゴールする予定だったが、コロナ禍でそのオリンピック自体が延期になり、『日本横断徒歩の旅』もステイホーム要請に従う形でペースがかなり落ちてしまった。それでも、ここに来てようやく、直線距離にして日本海まで88kmとゴールが見えてきた。

    東京・晴海埠頭をスタートしたのが2019年2月10日。この原稿を書いている3月10日の約2年前には、東京の西端、裏高尾を歩いていた(第4回)。その記事のタイトルは「マスクの季節、電柱の林を超えて梅と高速道路の里、高尾へ」となっている。ここで言う「マスク」とは、花粉症対策のマスクを指す。当時の僕は、花粉症は特に日本人に多いアレルギーで、集団の中に個を埋没させることを良しとする現代日本の風潮と相まって、春先になると町の風景が異様に感じられるほどマスク人口が増える、という主旨のことを書いた。

    それが今、その当時は想像もしなかった新型コロナウイルスの世界的な流行により、「マスクの季節」どころか「マスクの時代」になってしまった。町を歩く人々は、今や花粉症の有無に関係なく、ほぼ全員マスクをしている。春の足音はどんどん大きくなっているが、政治もメディアも市民も、コロナコロナで花粉症のことなどすっかり忘れているように見える。どちらかというと世捨て人的な発想でこの旅を始めた僕とて、人のことは全く言えない。

    さて、今回の旅のスタート地点は、北アルプスのふもとにある長野県安曇野市の外れにある安曇追分駅。大糸線沿いの国道を、長野県最後の市街地・大町市方面を目指して歩き始めた。ふと北アルプスを借景とする水田地帯に目をやると、梅がほころび始めていた。思えば、2年前には裏高尾で素晴らしい梅林に出会った。人間の営みが大きく変わっても、自然は泰然自若としている。

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    ゴールの糸魚川まで続く国道147号線

    ◆日本の田舎の国道には「歩道がない」?

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    とても歩道とは言えない国道の端を、杖をついたお年寄りが歩いてきた

    この旅を始めるにあたっての心配事の一つは、日本特有の「歩道のない大通り」を歩く危険性だった。国土が狭いから仕方がない面もあるのだが、カナダとイギリスで子供時代の多くを過ごした自分の目には、「日本の田舎道には歩道がない」と言っても過言ではないほど、危険に映る。都市部の表通りやメジャーな国道には概ね十分な歩道が整備されているが、裏通りや田舎道には白線が引いてあるだけで、幅が1mにも満たない歩行者用のスペースに電柱やら標識やらガードレールが飛び出している。とても歩行者が安全に歩ける「歩道」とは言い難い。そんな道は珍しくない。

    さらに都市部ではママチャリの洪水、最近はデリバリーサービスが縦横無尽に走り、地方ではサイクラーのロードバイクが猛スピードで歩行者を掠めていく。ドイツ帰りの友人は、この日本の道路状況を見て、一言「車と人と自転車が同じ所を通っている」とつぶやいた。この旅でも、東京・神奈川県境を山越えして下りた先で、車もすれ違えないような狭小トンネルを通らざるを得ないシーンがあった。当時同行していた女性が、車が無遠慮に行き交う暗いトンネルの中央付近で、心底怯えて固まってしまったのを思い出す(第5回)。

    そんな道路状況なので、僕のこの旅も、危険な「歩道のない大通り」はなるべく避けて歩いてきた。そのため、歩行距離を計ってみると、Googleマップが算出した最短ルート(本稿掲載地図参照)の2倍ほどの距離を歩いている。国道を一直線に歩いていたらとっくにゴールしていたわけだ。もちろん、最短ルートで早く着くのが目的ではないし、裏道を歩いた方がずっとたくさんの発見があるので、国道が危険でなくてもそうしていただろう。とは言っても、現代の日本の道路が、歩いて旅をする人間のことなど全く考えていないことは確かだ。

    日常生活でも、お年寄りの運転ミスによる事故が増えて免許返上を求める声が喧しいが、お年寄りが安心して徒歩で生活できる環境がなければそれも難しい相談だ。僕は長年アイメイト(盲導犬)の取材をしているが、田舎に住むアイメイト使用者が極端に少ないのも、道路が危険すぎるからだと思う。

    この先の糸魚川へのルートは、大町市から先は山間部に入り、今歩いている国道147号(大町から先は148号)の一本道だ。過疎地を通るいわゆる3桁国道である。長野冬季五輪が開催された白馬あたりはまだよく整備されている箇所も期待できるが、ほぼ全線にわたって「歩道のない国道」が続くことが予想される。現に今回既に、スタート地点から1時間ほど歩いた国道沿いで、ヒヤヒヤするシーンに出くわした。前から杖をついたお年寄りが、強風によろけながら車がビュンビュン掠める中を黙々と歩いて来た。マスクと帽子で顔がほとんど隠れていたので視界もかなり狭まっていたのではないだろうか。

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    「歩道のない国道」沿いにあった大衆劇場

    プロフィール

    プロフィール

    内村コースケ

    1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

    本誌紹介

    特集:ルポ  武漢研究所のウソ

    本誌 最新号

    特集:ルポ 武漢研究所のウソ

    新型コロナウイルスの発生源と疑われる中国の研究機関は危険な感染実験を繰り返していた

    2021年6月22日号  6/15発売

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