コラム

ハリウッドの白人偏重「ホワイトウォッシング」は変えられるか?

2017年11月09日(木)11時30分

攻殻機動隊の草薙少佐をスカーレット・ヨハンソンが演じたことは日本ではあまり反発を受けていないが Gonzalo Fuentes-REUTERS

<白人以外の登場人物を白人の俳優が演じる「ホワイトウォッシング」。ハリウッドでは現在もこの人種差別的な慣行が続いているが、観客側からの批判は強くなっている>

「リベラル」な思想のリーダー的存在であることを誇りにしているハリウッドの映画界だが、最近話題になっている性暴力やセクハラの温床になってきたことなど、偽善的なところも目立つ。ハリウッドの偽善のひとつが「ホワイトウォッシング」だ。

「ホワイトウォッシング」とは、もともとは壁に「しっくい」を塗って白くすることを意味する表現だが、映画界ではダークな肌を白く塗りつぶすことを意味する。つまり、原作では黒人、ヒスパニック、ネイティブアメリカン、アジア人といった非白人(people of color)の主要人物を、映画で白人の俳優に置き換えてしまうことだ。

このような環境ではマイノリティの俳優が活躍する場がなくなり、才能を認められる機会がない。その結果、アカデミー賞の主演男優・女優と助演男優・女優にノミネートされる俳優も白人が主になる。

この状況に抗議するハッシュタグ #OscarsSoWhite (オスカーはとっても白い)は、2015年にソーシャルメディアのトレンドになった。それなのに、翌年2016年のアカデミー賞にノミネートされた20人の俳優すべてが白人だった。

その年に司会を務めた黒人コメディアンのクリス・ロックは、オープニングで「司会もノミネートするのだったら、僕はこの仕事をもらっていなかった」とジョークでこの問題を取り上げた。

ハリウッドのホワイトウォッシングとアメリカの人種差別の歴史は切り離せない関係にある。

アメリカでは、奴隷制度が廃止された後も、特に南部では人種差別が公然と行われてきた。悪名高いのが、「ジム・クロウ法」と呼ばれる南部の州での人種隔離法だ。黒人は白人と同じレストランで食事をしたり、同じ学校に行ったり、同じトイレを使うことは許されていなかった。異なる人種間での結婚も法で禁じられていた。こんな時代に黒人俳優を映画の主役に起用するのが不可能だったのはわかる。

1950年代から「ジム・クロウ法」廃止と公民としての平等な権利を求める公民権運動が高まった。そして、1965年にようやく公民権法が制定され、1967年には異人種間での結婚を禁じる法が廃止になり、社会的な認識は高まった。

しかし、国民の間に「人種差別はいけないことだ」という認識が広まるのには時間がかかった。そして、この時点でも、社会を動かす金と権力を持っているのは、圧倒的に白人男性だった。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅反落、1000円超安で今年最大の下げ

ワールド

中国、ロシアに軍民両用製品供給の兆候=欧州委高官

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明、無所属候

ワールド

IAEA、イラン核施設に被害ないと確認 引き続き状
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story