コラム

トランプ時代に売れるオバマとバイデンの「ブロマンス」探偵小説

2018年08月17日(金)17時00分

オバマとバイデンのブロマンス小説『Hope Never Dies』の表紙イラスト Courtesy Quirk Books

<トランプ政権下にオバマ時代を恋しがるアメリカ人は、まだまだストーリーの続きを期待している?>

5月末から6月初めにかけて開催されるアメリカ最大のブックフェアであるブックエキスポ・アメリカで『Hope Never Dies(希望は決して消えない)』のポスターを見かけたとき、「これは、オバマ政権を原作にしたファンフィクションではないか?」と思った。

ファンフィクションとは、日本で「二次創作」と呼ばれるものだ。英語圏でも、主にアニメ、漫画、小説、映画などのファンがオリジナルの登場人物を使って自己流の続編や異なるバージョンを創作している。ファンフィクションの最も有名なサイトである fanfiction.net の登録ユーザーは全世界で1000万人を超え、ここに掲載されている「ハリー・ポッター」の二次創作は約80万もある。

だが、ファンフィクションが日本の二次創作と異なるのは、同人誌などで商品として売られてはいないことだ。アメリカでは著作権法が厳しく、二次創作物を売ることは固く禁じられている。

とはいえ、ファンフィクションの優れた作者にはオリジナルに負けないほどのファンがつき、それをきっかけに小説家としてデビューする者も少なくない。

ティーンを対象にしたYAファンタジーのジャンルで非常に人気があるカサンドラ・クレアは、かつては「ハリー・ポッター」と「ロード・オブ・ザ・リング」のファンフィクション作家として知られていた。全世界で爆発的に売れたエロティック小説の『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』も、もともとはバンパイア小説の『トワイライト』のファンフィクションとして創作されたものだ。論争があったものの『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』を売ることができたのは、主人公の名前や背景が原作とはまったく異なるように作り直されたからである。

「ファンフィクション」の背後にある動機は、原作への情熱と原作の主人公への愛である。原作を読み終えたり、観終えたりした後でも、その世界に別れを告げたくなくて創作の続編で原作の世界や登場人物を生かし続けるのだ。

実際に読んでみると、『Hope Never Dies』にはそういう意味あいでのファンフィクションの要素が確かにある。

この探偵小説の主人公は、実在の人物をモデルにした架空のオバマ元大統領とバイデン元副大統領だ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ワールド

英独首脳、自走砲の共同開発で合意 ウクライナ支援に

ビジネス

米国株式市場=S&P上昇、好業績に期待 利回り上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story