コラム

共和党・民主党以外の第三政党、リバタリアン党の予備選挙

2020年05月07日(木)17時00分

大統領選は米国の底流に流れるリバタリアン思想の力強さを再確認することに? ジャスティン・アマッシュ下院議員 REUTERS/Jonathan Ernst

<11月の大統領選挙では米国の底流に流れるリバタリアン思想の力強さを再確認する貴重な機会となるかもしれない......>

米国は二大政党の国だと日本では紹介されている。しかし、実は米国にも共和党・民主党以外の小政党が存在している。それら小政党のうち最もイデオロギー的に突き抜けており、かつ規模が大きい政党が「リバタリアン党」である。

2016年大統領選挙では、共和党・トランプ、民主党・ヒラリーを嫌った多くの人々がリバタリアン党に投票した。そのため、通常の場合は大統領選挙では1%未満の得票しかできない同党候補者が州によっては3~6%台の記録的得票を得ることになった。大統領選挙の勝敗を決する接戦州の勝敗差は1%前後であり、前回の選挙ではリバタリアン左派の傾向がある人々が同党に流れた結果が及ぼした影響は極めて大きいものだった。

実際、同党得票数とヒラリーの得票数を合計した場合、全ての接戦選挙区でヒラリーはトランプに勝利していた。前回の投票結果はこの地味な第三政党・リバタリアン党の動向が2020年の大統領選挙の結果を占う上で重要な要素であることを示唆している。

リバタリアン党とはどのような政党なのか

そもそもリバタリアン党とはどのような政党なのか。リバタリアン党の公式HPを見てみると、政党の紹介項目には「We are the only political organization which respects you as a unique and responsible individual.」と掲載されている。つまり、個人の権利及び責任を尊重する唯一の政党だということだろう。その上で、個人、家族、およびビジネスの決定に対する政府の干渉に強く反対し、すべての米国人は、他人に害を及ぼさない限り、自分の人生を生き、自分の利益を追求する自由があるべきだと明記されている。

彼らは、自己決定権を重視し、表現の自由を尊重し、プライバシー侵害を拒否し、個人の様々な志向に対する制限を否定し、妊娠中絶の自己判断を肯定し、子どもの権利が尊重されている限り保護者の権利を擁護し、法律の過剰な適用を防止し、死刑制度に反対し、自己武装を容認する。

また、経済政策としては、政府からの財産権の保護、私人による環境保護の権利と責任の確立、エネルギー産業に対する助成の否定、増税への反対(歳入庁廃止含む)、憲法に基づかない政府プログラムの廃止、支出削減による財政均衡、公務員労組への強制加入停止、自由市場の重視、中央銀行によるインフレ政策否定、許認可の廃止、労働自由化、教育・医療・高齢者福祉の自由化、売春合法化なども掲げている。

外交防衛政策としては、外国からの侵略から守るための軍事力保持(事実上の専守防衛)、国民の自由を制約しないように政府機関(諜報機関も含む)への透明性の確保要求、軍事援助・対外援助の停止による不介入、自由貿易推奨と圧政から逃れる移民の肯定などを謳っている。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が

ビジネス

「クオンツの帝王」ジェームズ・シモンズ氏が死去、8

ワールド

イスラエル、米製兵器「国際法に反する状況で使用」=

ワールド

米中高官、中国の過剰生産巡り協議 太陽光パネルや石
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 9

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 10

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story