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タックス・法律の視点から見る今のアメリカ

秦 正彦(Max Hata)|アメリカ

米国大統領選挙まで2ヵ月、法人税を巡る論争と背景

バランスのいい課税ポリシーが競争力維持のカギ MarianVejcik-iStock.

普段、自分のブログでアップするポスティングは、アメリカ税法、特にクロスボーダー課税に特化したオタクな内容。たまに(いつも?)ロックミュージック考現学や地元NYCや南カリフォルニアのMarina del Reyの近所の話しとかに大脱線したりしながら、こんなの誰が読むの?っていうようなアメリカ・クロスボーダー課税の底知れぬ魅力を独自で追及し続けてきた。そちらは今後も探求しまくるのでよろしく。

で、ここで頂いた紙面では、せっかくなのでもう少し広範に、法的な視点からできるだけ冷静に今のアメリカを考えてみたい。法的にと言っても専門的にどうしても税法、通商、経済を取り巻く動向にかかわる話しが中心となる.

11月3日に大統領選挙が控えているこのタイミングで、今後のアメリカのことをアレコレ考えるのは絶好のタイミング。今のアメリカはイデオロギーの対立が激しく、トレンドとしてはどんどん右派と左派に偏っていき、中道政治は一般受けしないように見える。そんな世の中では、どんな意見でも結局、半数の市民からは猛反対を受けることになる。例えば、この秋の新学期、米国では9月から新学年が始まるけど、学校を限定的にでも物理的にオープンするかどうかの議論だって、熟考を重ねた後にどれだけセンシブルな提案・決定を下しても、半数の利害関係者はアンハッピーな状態となることが多く、そんな環境で国や州を統治していかないといけないリーダーは大変だ。

センセーショナルなメディアの報道からは測り知れないかもしれないけど、実際に身の回りを見てみると、少なくとも僕が身をおいているビジネスの世界では、今でも比較的バランス良く世の中を見ている人たちがまだまだ健在なのも事実。これらの複雑なビューポイントがどんな形で選挙結果として表れるのか、投票結果が出るまで分からない。

税制的には、2017年の税制改正で35%から21%に引き下げられた法人税率が、民主党主導となると、再度28%程度まで引き上げられる可能性がある。個人所得税は2017年の改正では税率は余り下がらなかったし、逆に控除が減って実質増税になったケースもある。それでもコロナ対策の歳出で財政は厳しいから、例えば年収数ミリオンドル以上のハイエンダーには付加的に課税が規定される可能性はある。

プライベート企業の活力はどこから

ちなみに21%の法人税率って、以前の35%と比較すると一気にかなり低くなったのはその通り。ただ、21%っていう法人税率そのものは先進国の平均レベルで、特別に低い訳ではない。欧州や他の国が法人税等の直接税に加え、VATを中心とする間接税を併用して歳入源としているのとは対照的に、米国では国レベルのVATが存在しないという制度上の差異があるのでそもそも比較可能性自体低いのだが。州には小売り時点で課される売上税っていう制度があるけど、あくまで州の歳入源であり、国庫にはプラスにならないという米国の特殊事情がある。VAT導入、またそれに近い「Destination Base」のキャッシュフロー法人税(「DBCFT」)というのが、2017年の税制改正当初議論されていたけど、反対意見多数で結局封印されたという経緯がある。事業主体単位でネット所得に課税する従来からの法人税は、容易にグローバルに到達できるデジタル経済には制度自体が馴染まない、または着いていけていない部分が多く、消費地ベースで課税するDBCFTの議論はどこかのタイミングで再燃するべきだろう。

法人税率だけど、高税率に戻して、多国籍企業、特にコロナ禍の中でも好調なハイテク企業に対する課税強化したくなる衝動は理解できる。ただ、それが本当に米国市民、米国にとって長期的に得策かどうかは疑問。21%とは言えそれは連邦法人税だけを考えたらの話しで、州税も加味すれば26%程度になるのが普通で、今でも結構高い。GILTIとかFDIIとか新たな制度を規定して、米国企業がグローバル事業を外国から展開しても、米国内から展開しても遜色ないような制度にしている中、ここで舵取りを誤るとまた米国からグローバル事業を展開し難くなる。

テレワーク環境や日常品のオンラインショッピングとか、州政府の経済封鎖政策中に一般市民をサポートしてくれてたのは、エッセンシャルワーカーと並び、プライベート企業の技術。信じられないスピードのワクチン開発もそうだ。長期に亘る技術革新や日頃からの研究開発に基づく米国プライベート企業の実力。大企業は雇用の多くも担っている。競争が激しいグローバル環境で成功していくため、今後もプライベート企業は投資を続けていく必要があるし、スタートアップを税制面から支援していく必要がある。成功した企業は目につくけど、その陰で大多数のベンチャーやスタートアップが日の目を見ずに消滅していることを考えると、バランスのいい課税ポリシーでプライベートセクターの活性化を皆で助長していくことが国の活力、市民生活全般に恩典をもたらすことになる。

 

Profile

著者プロフィール
秦 正彦(Max Hata)

東京都出身・米国(New York City・Marina del Rey)在住。プライベートセクター勤務の後、英国、香港、米国にて公認会計士、米国ではさらに弁護士の資格を取り、30年以上に亘り国際税務コンサルティングに従事。Deloitte LLPパートナーを経て2008年9月よりErnst & Young LLP日本企業部税務サービスグローバル・米州リーダー。セミナー、記事投稿多数。10年以上に亘りブログで米国税法をDeepかつオタクに解説。リンクは「https://ustax-by-max.blogspot.com/2020/08/1.html

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