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タックス・法律の視点から見る今のアメリカ

秦 正彦(Max Hata)|アメリカ

2021年のキーパーソン「混乱(?)のアメリカ大統領選挙後の2021年クロスボーダー課税」

2020年は変わった年だったけど、何とか2021年に突入。Rockefeller Centerのクリスマスツリー付近も例年と比べると人通りはまばら。(Photo by Max Hata)

クロスボーダー課税のグローバル・コンセンサス作り立役者「Pascal Saint-Amans」

明けましておめでとうございます!

2020年師走はアメリカ大統領選挙の顛末や次々アップデートされるアメリカのクロスボーダー課税がらみの財務省規則、等のキャッチアップに明け暮れた。アメリカ大統領選挙は結局、いろいろあったけど、無事にバイデン政権が誕生している。最初に面白いな、と思ったのは、投票直後から多くのケーブルネットワークが選挙に不正があったのではという憶測を徹底的に封印しようとしていた点。実際に各州、特に争点となった天王山の4州、で何が起こったのか未だ誰も把握していない時点から何の疑義も許さない、という体制が敷かれていた。今のアメリカでは、ケーブルネットワークのニュースは、チャンネルによって報道されていることがまちまちなので、多くの国民は何を信じていいか分からないことが多い。結局何も問題なかったのだから、そのままにしとけば反って騒ぎが少なかったのでは。

2000年のブッシュ(ジュニア)のフロリダ州はいろいろあったけど、僕も実際、票がどんなプロセスで集計されていくのか、とかあまり過去に深く考えたことはなかった。で何が問題となり得るのか、訴訟申し立ての原文の一部を読んでみたんだけど、多数の宣誓書、ビデオ・フッテージ、データ・アナリティクス専門家の証言に基づくその内容はあまりに凄いというか、にわかには信じ難いものだった。さすがにこれはないでしょう、って感じのもの。しかも、これらはあくまでも審理手続き、すなわち正式なFact Finding手順を踏む前の一方的な申し立てに過ぎない。最高裁判所を含む各裁判所は、こんな物議をかもすこと必至の判断を委ねられてはたまんない、と考えたのか、実際の審理に至らぬよう、Standing(当事者適格)やLaw School出てから実際には聞いたことがなかったLatches(出訴遅滞)とかのいわゆる法的なTechnicalityを駆使して門前払いして、無事に政権誕生となっている。アメリカのポリティクスはその辺の小説より奇なり。

2021年タックス世界の注目人物は

で、タックスの世界は僕にとっては同じくらい刺激的だけど、グレート・リセット的な他の大きな潮流、陰謀、画策、に比べるとまだまだ平和と言うかInnocuous。すなわち毒気が少ない話し。2021年に注目するべき人物として、OECDのCentre for Tax Policy and AdministrationのDirectorを務める「Pascal Saint-Amans」を挙げておく。

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逆境にもメゲズにグローバルコンセンサス作りに邁進するウォリアーPacal Saint-Amans。神楽坂で夕食を共にさせて頂いた際はユーモア溢れる知識人だった。(Photo: OECD The Forum NETWORK)

コロナ後のグローバル課税環境は80sのDéjà vu?

どこの国もコロナ前から財政は厳しく、他国の大企業が自国市場でビジネスを派手に展開しているにももかかわらず、十分な法人税、すなわち「フェア」シェアを支払っていない、という不満が燻っていた。この手の被害妄想というか疑念は今に始まったことではない。

今では実感沸かない人も多いかもしれないけど、80年台後半、日本企業はアメリカ市場を席巻していた。アメリカ財務省は、にもかかわらず日本企業のアメリカ子会社のアメリカにおける所得が低く、法人税をアメリカに十分に支払っていないという懸念を抱いていた。「これはおそらく洗練されたEarnings Stripping、すなわちBase Erosionプラニングに従事しているに違いない...」と考えた。それはそうだろう。他国の多国籍企業だったら、アメリカみたいな高税率国にはグループ内の所得の多くを残すような戦略は取らないだろうから。増してや当時は未だ80年台後半とか90年代前半。Base Erosion対策やCFC課税をグローバルレベルで対応しようなどと言う機運が熟するにはさらに20年ほど待たないといけない時代だ。

そこで、日本企業を標的とし、米国議会や財務省は移転価格税制を強化したり、今から思えば先進的なEarnings Stripping規定を制定したりしていた。ABCニュースのNightlineとかお茶の間向き報道特集でも、日本企業がいかに移転価格を悪用して米国の法人税を圧縮しているのか、という話しで盛り上がっていた。日本製の自動車を壊したり焼いたりするパフォーマンスが存在した時代。う~ん。最近ではWSJとかでもニュースになることが少ないJapan。問題児でもRelevantだった時代が懐かしいね。

で、当時の日本企業の実態は、と言うと、Earnings StrippingとかBase Erosionという用語もピンと来ないくらいグローバル実効税率には無頓着。マーケットシェアの拡大にフォーカスしていたので、概して利益率が低かったというだけの話し。この点に関しては2008年にアメリカ財務省が90年台からの膨大な申告データを基に解析したレポートでもその実態が明らかになっている。大胆なEarnings StrippingやBase Erosionに従事している「外国企業」はもともとアメリカ企業だった法人がInversionという手法で外国企業に成りすましたケースに顕著である、という結果が出ている。日本企業的にはアメリカに勝手に買いかぶられて税制強化されて迷惑だったね。

DSTの急激な蔓延とグローバルコンセンサスは時間との闘い

80年台後半の話しにフラッシュバックしたのは、逆に今では世界各国がアメリカ企業、特にハイテク企業に同じ懸念を持っているということ。80年台の日本企業との違いは米国企業は実際に科学的かつ合法的に徹底したグローバル実効税率管理をしている点だけどね。

コロナ禍で自国の、特に伝統的な会社の事業が低迷する中、業績好調なアメリカのデジタル企業は格好の課税ターゲット。コロナ対策で歳出が嵩み、一日も早く何らかの名目で課税したい、ということで各国独自のデジタルサービス税(DST)の導入にますます拍車が掛かっている。DSTって、法人税って言うより関税みたいな外形課税で、儲かってても儲かってなくてもグロスの売上に課税されるし、企業からしてみるとFTCが取れない、つまり居住国の法人税と相殺できないんで、ネット所得との比較で税負担が雪だるま式に重くなることが多い。

グローバルの調停人としてOECDが登場

そこで登場するのが、いつの間にか国連に代わり、世界のタックス・ポリシーを牽引する組織として台頭が目覚ましいOECD。2019年から本腰を入れて世界130国以上を束ね、世界共通のグローバル課税ポリシーコンセンサス作りに腐心している。細かい点は僕が別に書いている「USタックスオタクのオタクによるオタクのためのブログ(笑)」に数々のポスティングがあるんで参照して欲しいけど、要は自国内にユーザーがいるビジネスは、オフィスとか物理的な施設が存在するしない等の従来のクロスボーダー課税権有無にかかわらず、超過利益の一部に課税してよろしいという制度。ルーティンリターンを超える超過利益を各国で分け合い、その原資を特定することで、二重課税が排除される仕組み。これ、言うは易し行うが難しで実行可能な設計は困難を極めてるんだけどね。で、コンセンサス作りに成功したらその代わりに各国独自のDSTは取り下げましょう、っていうのが条件だ。

クロスボーダー課税は、苦労して儲けた他国企業のお金を各国が競って取り上げる訳だから必然的にWinnerとLoserが出てくる。デジタル企業が認識する超過利益に対する課税となると、基本的に取られるのはアメリカ企業。いくら制度上はアメリカ企業狙いでないと言っても、DSTがGAFAタックスとか呼ばれていることからも実態としてアメリカ企業に対する課税となることは明らか。となると、OECDの新制度設計にもアメリカの同意がMust。なんだけど、今のところなかなか共通項を見いだせずにいる。

また、課税という国家主権に与えられた最重要ポリシーマターをOECDに献上してしまっていいのか、っていう細かい制度設計以前のコンセプト的な抵抗は、他国にも増してアメリカ議会はセンシティブに感じるところだろう。

2021年はウォリアーPascalの正念場

で、OECDで数々の逆境にもメゲズにグローバルコンセンサス作りを推進しているのが先のBEPS 1.0で既に大きな実績を作り上げたPascal Saint-Amans。Pascalはアメリカに対しては概して辛口なことが多く、僕がパートナーを務めるEYのNYCでの国際税務イベントのパネルスピーカーとしてマリオットマーキーの壇上に登場した時も「アメリカの税制はStupid」とかまで言っていた。彼の祖国のフランスは?って思ったけど、彼の話しはなかなかProvocativeで、Politically Correctな話しに終始することが多い今日日のプレゼンの中ではピカイチで楽しめた。その後、ちょうど一年前、経団連のイベントで来日した際に、神楽坂で夕食をご一緒させてもらうという光栄に恵まれたけど、昼間のプレゼンではグローバルコンセンサス作りを一心不乱に追及するウォリアーを演じ、一転オフのPascalはユーモア溢れる知識人という印象を受けた。海千山千の130超の国の意見調整をしながら2021年中旬の合意を目指すって言ってるけど、果たしてそんな離れ業が可能か。腕の見せ所だ。

 

Profile

著者プロフィール
秦 正彦(Max Hata)

東京都出身・米国(New York City・Marina del Rey)在住。プライベートセクター勤務の後、英国、香港、米国にて公認会計士、米国ではさらに弁護士の資格を取り、30年以上に亘り国際税務コンサルティングに従事。Deloitte LLPパートナーを経て2008年9月よりErnst & Young LLP日本企業部税務サービスグローバル・米州リーダー。セミナー、記事投稿多数。10年以上に亘りブログで米国税法をDeepかつオタクに解説。リンクは「https://ustax-by-max.blogspot.com/2020/08/1.html

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