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平野美紀|オーストラリア

突然のクラスター発生、ロックダウンは効果あるのか?

一時ロックダウンとなったノーザンビーチズで最も人気の高いマンリー・ビーチは、規制緩和後の集会人数を10人までに制限された。Credit:Patricia Mado-iStock

昨年12月16日、それまで新規感染ケース0が続いていたニューサウスウェールズ州シドニー北部のビーチ・エリアに衝撃が走った。この日、2人の新規感染が確認されたのだ。

この地域は、パンデミック初期に海外帰国者数人の感染が確認された後、その人が訪れた飲食店で数人の感染が確認されたくらいで、何ヶ月間もの長い間、感染者は出ていなかった。

筆者自身も12月13日に「オーストラリアは全土で新規感染0となっていて、クリスマスもいつも通りに迎えられそうだ」と書いたばかりだったので、青天の霹靂とはまさにこのこと。しかも、クラスター発生場所から少し離れているとはいえ、自分が居住している町と同じ行政区だったのだから...

最終的に3週間のロックダウンが行われ、現在は再び新規感染ケース0となっているが、州当局はどのように感染拡大を抑え込み、再び新規感染ゼロへと戻すことができたのか? また、今回行われたロックダウンがどのようなものだったか?

当事者として、その経緯を記しておこうと思う。



突然のクラスター発生からロックダウンへ

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クラスター発生場所として世界的にも有名になってしまったアバロン・ビーチ。Credit:xavierarnau-iStock

12月16日、シドニー北部の海沿いの町アバロンで、60代と70代のカップル2人の感染が確認された。わずか2日間でこの地区での感染者が17人に増加したことから、17日、ニューサウスウェールズ州当局はクラスターと認定し、発生地区のアバロンを含む行政管轄区ノーザンビーチズ住民に、リクエストの形で「Stay at Home」を要請。(参照

19日、アバロン・クラスター関連感染者が38人となった時点で、ノーザンビーチズ全体が実質的なロックダウンとなり、その後、26日にアバロンのある北部エリアだけに縮小され、1月9日までロックダウンが続いた。

また、26日から開催予定だった世界有数のヨットレース「シドニー・ホバート・ヨットレース」に出場するヨットマンのほとんどがノーザンビーチズ住民であったことから、75年の歴史あるレースが初めてキャンセルに...(参照

最終的にアバロン・クラスター関連感染者は100人を超えたが、同地区では1月8日に感染者1人が確認されて以降、感染者は出ていない。クラスターを発生させたウイルスは、ゲノム解析により、米国からの帰国者由来であることが判明しているが、これまで感染者がでていなかった同地区へ、どのようにウイルスが持ち込まれたのかは、不明のままだ。

感染者との接触者となるのは誰か

2人の感染が確認された直後、州保健当局は、下水調査から感染したと推定される日以降に、この2人が訪れた場所と日時を公開し、2人と直接接触した人だけでなく、接触者となるすべての人へ、至急検査を受けるよう呼びかけた。(参照

ニューサウスウェールズ州では感染者が確認されると、その感染者が訪れた場所や使用した公共交通機関など、そこを利用したことで感染した恐れのある"ホットスポット"と日時を公開。同じ場所を同じ日時に訪れた人は、状況によってはclose contact(濃厚接触者)、または、casual contact(軽度接触者?)となり、検査を受けるよう勧告される。そのため、家族や知人など、感染者と直接接触した人でなくとも、濃厚もしくは軽度接触者となる。(参照

当日、発表されたホットスポットは、北部の町アバロンとパームビーチにある飲食店やスーパーマーケット、ビーチの更衣室など10ヶ所。そのため、接触者となる対象者も多く、この日以降、検査所に多くの人が押しかけた。

ホットスポットは、毎日、判明するごとに更新、公開され、Twitterをはじめ、公式サイト上でも閲覧可能だ。当局から連絡がなくても住民が自ら確認できるため、該当すると思った人が検査に行ったことで、アバロンを中心としたノーザンビーチズ北部地区では、発生から1週間で人口の約43%に当たる25,000人以上が検査を受けた。(参照

周辺住民の大半が自ら率先して検査を受けたことは、陽性者=感染者を迅速に隔離することに繋がったと思う。

迅速な大量検査体制の確立

アバロンは小さな町であり、これまで感染者がほとんどでていなかったことから、検査所の規模が小さく、約8km離れた州立病院が検査希望者で混雑し、州保健当局は、同地区周辺にポップアップと呼ばれる仮設検査所を数ヶ所設営した。

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感染者が出たエリアに急遽、設営されるポップアップ(仮設)検査所。Credit:Daria Nipot-iStock

ニューサウスウェールズ州では、クラスター発生地区に迅速に仮設検査所を増設して、検査キャパシティをアップさせている。集中的な検査実施を確立する当局と、進んで検査を受ける住民によって、12月27日にはパンデミックが始まって以来、約400万件の検査実施件数を達成。(1月20日現在、4,524,482件)

1日の最多検査数は69,809と、24時間で約7万人の検査を実施するなど、迅速かつ感染者多発地区での重点的な検査で、感染拡大を抑え込んできたといえるだろう。ちなみに州人口は2020年6月時点で816.4万人。(参照




飲食店の自発的な閉鎖と早期ロックダウン

2人の感染が確認された翌日の17日には、当局がリクエストの形で「Stay at Home」を要請。この時点ではロックダウンではないが、18日の金曜日には、ノーザンビーチズ地区内にあるパブやレストランなどの飲食店の多くが、週末の人出を懸念して、金土日の3日間、自発的に店舗をクローズした。

実は州の保健大臣もノーザンビーチズの住民であった...
「ノーザンビーチズにある17のパブのうち14軒が自発的に既にクローズ。もしくは週末までにクローズするとのこと。・・・アバロン・クラスターのアウトブレイクに対応してくれるノーザンビーチズのコミュニティの皆さんに感謝します」とツイート。

その後、感染者38人となった時点で「Stay at Home」を23日の水曜日まで延長すると発表。実質的なロックダウンとなった。

この時のロックダウンの主な規制内容は以下の通り。(参照

1.ノーザンビーチズ行政管轄区内の公共の公園やビーチを閉鎖。
2.同区域の出入り禁止。(域内からも、域外からも出入りすることができなくなった)
3.自宅への訪問者数を5人以下に制限。
4.飲食店はテイクアウト営業のみ
5.外出できる理由は以下の4つのみ。
「仕事や学校、病院などに行く」「生活必需品の買い出し」「適度な範囲でのエクササイズ」「介護などのための訪問」

ロックダウン終了予定の23日になった時点で、新規感染者は1桁となっていたが、まだ油断できないとの判断から、クラスターが発生しているアバロンを含む北部エリアのみ、そのままロックダウンを延長。クリスマスを含む3日間、域内からの出入りが禁止となった一方、南部はシドニー都市圏全体の規制レベルに緩和された。(参照

その後、再度、北部エリアのロックダウンは延長され、最終的に1月9日まで続いた。(参照

感染者17人で早めの自宅待機呼びかけと、30人を超えた時点での早期ロックダウン、そして、クラスター発生地区周辺での新規感染者が1~3人程度しか出ないような状況になってもロックダウンを緩和せず、最終的に新規感染ケースがゼロになるまで続けたことは、感染拡を最小限に抑えるという意味で非常に大きかったのではないかと思う。

余談ではあるが、ロックダウン中の12月22日にスーパーマーケットへ買い出しに行った時の町の様子は以下のような感じであった。ご覧のように、割とのんびりしているというか、静かな休日...というくらいの雰囲気で、緊張感は微塵もない。とはいえ、ほとんどの人はきちんとロックダウンのルールに従い、反対デモなどは起こらなかった。



州政府によるその他の対応

ノーザンビーチズがロックダウン中に、アバロンとは遠く離れた西部で新たなクラスターが発生したことから、ニューサウスウェールズ州政府は、12月20日に、これまで緩和してきた規制をシドニー都市圏とセントラルコースト、ブルーマウンテンズ地区で再強化すると発表。(参照

1月2日には、公共交通機関、スーパーマーケット、劇場や映画館、礼拝などの公共の場でのマスク着用を義務付け。4日からは違反者にA$200の罰金が課されるようになった。(参照

しかし、西部のクラスターでは、ロックダウンはされていない。

他州の反応

南オーストラリア州を除く他州が、直ちにノーザンビーチズ行政管轄区に対して州境を閉鎖または14日間の強制隔離を義務付け。西オーストラリア州はニューサウスウェールズ州全域に対して州境を閉鎖した。(参照

※南オーストラリア州はその後、追従する形でシドニー都市圏に対して州境を閉鎖。

オーストラリアでは、感染拡大している地域からの流入をストップすることで、感染の可能性のある人が広範囲に移動することがなくなり、結果的に全土へと感染が拡大することを防いでいるといえる。

ニューサウスウェールズ州のパンデミック対策

ニューサウスウェールズ州では、パンデミック初期も含め、ニュージーランドやビクトリア州がやったような厳しいロックダウンは一度もやっておらず、その後もほぼビジネスを再開したまま、新規感染ケースが0となった後にぽつぽつと感染者がでても、迅速な検査と感染経路追跡、隔離の徹底で拡大を抑えてきているのが現状だ。

そのため、オーストラリア各州のウイルス制御対策の中でも、ニューサウスウェールズ州の対策については、モリソン首相が『ゴールド・スタンダード』と呼び、高く評価したことで話題となった。(参照

その対策とは主に以下のような感じだ。

1.潜在的な(無症状を含む)感染者を洗いだすための徹底検査と検査体制の確立
2.ホットスポットの洗い出しなど、感染経路追跡を徹底し、迅速な情報公開
3.下水調査によるウイルス検出地区住民への早急な検査呼びかけ
4.ロックダウンはそれほど厳格なものではなく、飲食店は店内飲食禁止でテイクアウト営業のみとしても、その他のビジネスは人数制限をする程度で開け続け、経済ダメージを最小限に抑える

しかし、その『ゴールド・スタンダード』の対策でも、現在、世界的に拡大している変異種には太刀打ちできないのでは?と言われ始めている。人類はウイルスの挑戦にどう対抗していくのだろうか。

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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