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カリフォルニア法廷だより

伊万里穂子|アメリカ

人手不足で刑事課にいます

Rattankun Thongbun-iStock.

私の勤める裁判所は州の予算がカットされジリ貧なので、レイオフや給料カットがされ職員の士気がだだ下がりですが、それでも毎日開廷しなくてはいけないわけで。

人手不足が深刻です。私はここ数年民事専属の書記官ですが、18年前には刑事課にいたので、刑事課の人手不足の為に駆り出されています。昔取った杵柄とは言いますが、18年と言ったら、ふた昔前。生き物の様に変わる法律や罰金など、色々変わっているので、自転車乗るのと同じだ。乗ればどうやって漕ぐのか思い出すだろ、という能天気な上層部ですが、そういうわけにもいきません。

とはいえ絶対に忘れていないのは、拘置所にいる被告人に渡す書類にホチキスとクリップは厳禁という事。こういうルールは変わりません。

拘置所ではホチキスの芯も金属のクリップも凶器になるので、被告人には渡してはいけないのです。

これは私が書記官になって初めて習ったルールでした。なんでそんなもん?と思いましたが、拘置所のツアーにゆき、手作り凶器のディスプレイを見て、あ、なるほどね、と思いました。

固形石鹸を持ち手として彫り、その先端にホチキスの芯やクリップを真っ直ぐにしたものを埋め込み、それで人を刺すらしいのです。

歯ブラシの柄の先端に同じように埋められているものも多く、まあよく考えたもんだわ、と何か感心したのを覚えています。

拘置所のツアーには裁判官に着いて行きました。

入る前に書類にサインします。拘置所内でのルールと承諾書として、人質に取られても助けてあげません、というポリシーに承諾するなら見学させてあげるよ、というものでした。一緒に行ったのが裁判官だったので、流石に何かあったら助けてくれるだろう、という淡い期待。

サインして中に入る時に若干ビビりながら裁判官に何かあったら、流石に助けてくれるんですよね、保安官達が、と聞くと、あ、そういうのないよ、ここ。人質取っても意味ないっていう公のルールだから。人質取っても返してもらうために交渉しないかんな、というルールを掲げてるから、自己責任ね。

え?ちょっと待って。中入りたくないかも。。。

無事に見学はできましたが、また行きたいとは思いません。なにせ臭いのです。鼻が曲がると言いますが、本当に鼻が曲るかと思いました。。。

まあ貴重な体験をさせて頂いたと思う事にしていますが。

あまりの人手不足で職員をいろんな場所から引っ張って来ているので、何かとんでもない事故が起こるだろうな、自分は起こさないといいな、ホチキス気をつけよう、とぼんやり思う今日この頃です。

 

Profile

著者プロフィール
伊万里穂子
大学中退後カリフォルニアに移住。海外で手堅い職業をと思い立ち公務員に。裁判所の書記官になる。勤続18年目たった一人の日本人書記官として奮闘中。ブログ「リフォルニア法廷毒舌日記で日々社会の縮図とも言える法廷内で繰り広げられる人間模様を観察中。著書:「お手本の国の嘘」新潮新書

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