World Voice

ベネルクスから潮流に抗って

岸本聡子|ベルギー

ベルギーと日本の間で。微妙な白人至上主義に気が付くとき

私はベルギーで空手の稽古をしている。地元の道場(というかクラブ)はベルギー沖縄伝統空手協会に属する10の道場の一つだ。日本や武道や文化好きで熱心なベルギー人たちに混ざって、過去5年ほど稽古をしてきた。とはいえ今はコロナ禍の規制で室内でのスポーツは禁止されているので、普段の稽古ができない状態が1年以上続いているが。コロナ禍では、週一回のオンラインの稽古の他に、近所の仲間が自発的に集まって、公園で型の練習をしている。

指導者や有段者は数年に一度は沖縄で開催される国際合宿に参加してきた。ベルギー指導者にとっては、本家本元の沖縄の先生方の指導を受ける貴重な機会であり、国際交流や国際ネットワークの強化の側面も大きい。十数人のベルギー代表団で沖縄に行くこともあった。そんなときの逸話をある先生が面白おかしく話した時のことだ。

沖縄で合宿が終わって、ベルギー人空手家たちは皆でビーチに繰り出した。トロピカルな異国でビールでも飲んで大人数で盛り上がるにちがいない。厳しい稽古が終わった解放感もあるだろう。ビーチには2人の若い女性のライフセーバーが働いていた。片言の日本語がわかる先生たち数人は浅瀬で彼女たちに向かって「助けて、助けて」と溺れているマネをした。もちろんどこから見ても冗談で、本気に溺れていると思う人はいない。ライフセーバーたちもフフフと笑いながら通り過ぎた。

浅瀬でばたばたする先生たちの姿を想像して、私は他の人たちに合わせて、はははと笑った。でも何か違和感がある。はっきり言って全然面白くない。この違和感はなんだ。

先生たちは同じことをイタリアやスペインのビーチでやるだろうか?絶対にやらないとと思う。考えもしないだろう。この人たちは日本だから、日本人女性相手だからそんな冗談をしたのではないか。白人男性が片言の日本語を話すだけで、面白いと思ってもらえる。日本で白人男性は好意的に受け止められると瀬在的に思っている。母国やヨーロッパでは厳しく追及されるセクハラや女性差別の緊張感もない。日本人女性はおとなしいというステレオタイプで低く見ているのではないか。

私はベルギー人の空手家の先生たちにとてもお世話になっているし、伝統空手を推進する彼らの惜しみない尽力や情熱を尊敬している。だからこそ、私の違和感を伝えなくてはと思った。沖縄伝統空手だけにこれからも沖縄や日本との関係は続く。彼らはベルギー沖縄伝統空手協会を代表するわけだから。

先生に率直に話してみよう。きっとそんなつもりは毛頭なかったというだろう。過剰に反応しすぎだと思われるかもしれない。

それらは、いつも差別する側の思考だ。大したことじゃないと自己を正当化化し、自分に潜む白人至上主義や差別を黙殺し、差別される側への想像力を停止させる。

事象だけを切り取ってみれば、些細な事に思える。しかし小さな出来事の底に人種差別、女性差別、白人至上主義があるならば、それは大きな問題なのだ。

私が見過ごさないこと、少し勇気を出して言うことで、初めて学びの機会が生まれるかもしれない。

 

Profile

著者プロフィール
岸本聡子

1974年生まれ、東京出身。2001年にオランダに移住、2003年よりアムステルダムの政策研究NGO トランスナショナル研究所(TNI)の研究員。現在ベルギー在住。環境と地域と人を守る公共政策のリサーチと社会運動の支援が仕事。長年のテーマは水道、公共サービス、人権、脱民営化。最近のテーマは経済の民主化、ミュニシパリズム、ジャストトランジッションなど。著書に『水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(2020年集英社新書)。趣味はジョギング、料理、空手の稽古(沖縄剛柔流)。

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